梔子隊

□第四話
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「柳生は怒るとタメ口になるのか。いいデータが取れた」


どこからか取り出したノートに書き込む。


「それにしても、柳生と赤也があそこまで仲が良いとはな」
「それは同感だ。俺のデータ以上の様だし」


真田はそんな柳の隣までやってきて感心していた。
そこで柳がふとした疑問を口にする。


「それにしても『幸村』ってどこかで聞いたことあるような気が……」
「柳もか」
「『も』って事は真田、お前も?」
「ああ。何かが足りない、そんな気がするのだ」


産まれた空白を別のもので埋められている違和感を感じながらも、どうしようもないと本能が悟っている。そんな気さえしてきた柳と真田。


「……データ以外を信じている、か」
「柳?」
「いや、なんでもない」


そんな二人の元に、どこか晴れた表情の赤也と柳生が戻って来た。


「先輩ら、何してるんッスか?」
「いや、なんでもない。次は俺が相手をしよう」
「ういッス!」


二人がコートに入った瞬間、柳生と赤也が動きを止めた。


「!? この、感じは………?」
「この感じ………殺意か!」
「どうした? 赤也」


グオオオオオオオオオ


「な、なんだ……? この不気味な声は……」
「イノセンス、発動!」


獣のような咆哮を聞き、真田はうろたえる。
そんな真田を後目に柳生はイノセンスを発動させた。


「オマエラ……クワセロ!!」


そんな声とともに空から胸に穴が空いた怪物が一体降ってきた。


「ば、化け物?! 下がれ! 柳生、蓮二、赤也!」
「弦一郎?」


真田は刀の代わりにラケットで対応しようと構える。
柳には見えていない様で眉をひそめる。


「どこだ……? 向きによっては見えなくなるのか? だったら厄介だな……」


赤也にも見えていない様で、辺りを見渡した後、真田達の目線の先を探す。


「下がるのは真田君です、はっ!」


柳生は鎖を伸ばして、怪物を拘束する。


「柳生?!」
「切原君、今です!」
「そこか……サンキュー、柳生先輩! イノセンス、発動!」


首にぶら下げていたネックレスを大剣に変えて、柳生が捕まえているだろう怪物を二つに切り裂く。
するとその怪物は音を立てずに消滅した。


「爆発しない?!」


柳生は発動を止めて指輪をポケットにしまう。


「新種のAKUMAッスかね……。見えないタイプも出会った事ないし……」


赤也も剣をネックレスに戻し、呟く。


「え? 見えなかったんですか?」
「はい。真田ふ…部長には聞こえたらしい声も俺には聞こえませんでした。殺意は感じたんッスけど」
「おかしいですね……声は私にも聞こえましたよ?」
「見えたり、聞こえたりする人とそうでない人がいるって事ですか?」
「………マサにもこの事は話しましょう」
「おい、柳生に赤也」


二人に真田が話しかける。


「何ッスか?」
「今の剣はなんだ。それから柳生、今の化け物と突然現れた鎖はなんだ」
「化け物が何かは分からないが、剣や鎖は俺も気になる。説明をしてもらえるんだろうな、比呂士に赤也?」


柳も二人に問いただす。


「あー、なんて言うんッスかね……。柳生先輩、後頼んだ!」


説明のしようがないと思い、赤也は柳生にすべて投げた。


「ハア、しかたありません。『策士 裂かれし 有を無に 無を有に 風を敵に 大地を味方に 空を味方に 水を敵に』」


詩歌を紡ぎ、今起きた事を二人の記憶の中から消し去った。
それから四人は普通にテニスをして家へと帰っていった。
この一連の流れを他の誰かに見られているとも知らずに。









「『柳生比呂士』と『切原赤也』か……ククッ、こいつは使える」












「柳生さんと切原君か……。虚を倒せる上に浄化までしちゃうなんて、一体何者? それに記憶操作も、か。……立海はブン太一人だから心配だな」













まさかこの出来事がのちにあの事件につながるなんて、誰も予想出来ないのであった。








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