IFの世界のIFの話

□財前誕生日記念
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「はっ、はっ、はっ、はっ、」


逃げろ、逃げろ、逃げろ―――


俺の本能がそう叫ぶ。
何からかは解らない。
どうしてかも解らない。
ただ頭の中にいる誰かがずっと語りかけている。


―― 戦う力が無いのだから、戦う力を得る方法が無いのだから、今は逃げろ ――


と。
生きていたくて生きている訳じゃない。
死にたくないから生きている訳でもない。
それでも頭の中の誰かと本能は、生き残れと言い続けている。


うるさい、うるさい、うるさい、うるさい!


「ヴォォォオオオオオオ!」


言葉を持たない俺は、力の限り見えない誰かを威嚇する。


「こっちや、ボウズ! 早う!」


金髪の死神が刀を片手に俺へと手を伸ばす。
俺は無意識にその手を取っていた。


「シニ……ガ、ミ………? クウ!」


そこで漸く俺は、何から逃げていたのか理解した。


「お前に喰われる程安い命してへんわ」


俺を抱き抱えたまま、死神は虚を倒した。


「大丈夫やったか?」


俺が今までに見た事の無い、殺意が込められていない笑顔を向けてくる。
その笑顔から感じるくすぐったさが怖くて、死神から離れて威嚇する。


「グルルルル………」
「ん、威嚇出来る元気があれば大丈夫やな。俺は謙也っちゅうねん。ボウズ、名前は何ちゅうん?」


言葉を持たない俺は名前も持っていない。
何となく言っている意味は理解しているが、敵意が無いのも理解しているが、威嚇を止めない。


「野犬みたいな奴っちゃな………。しゃーない、ボウズの事はこれから『光』って呼ぶわ。スピードスターのスター部分から取ったんやで」


死神はにこにこしたまま勝手に話を進めていく。


「謙也、こっちは片付いたぞ」
「あ、おん! 今行くわ。ほな、またな。光」


太陽みたいにキラキラした死神は、俺に色んな物を残して去って行った。
この時の出会いによって、俺の人生が大きく変わる事になるとも知らず。







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