音げい!!

□練習曲♪蛙のウタ
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私の送る生涯は縛られている。

 高校生の分際でこんなセリフを吐くなんてバカらしいのかもしれないんだけど、私の生涯なんて小さいころから決まっていたようなもの。
 始まりはまだ道端の花を取ってお母様に渡していたころ。
 私は五歳になりそうで、「誕生会はしてくれるかな?」「くまさんのぬいぐるみはもらえるのかな?」「もらえたら、ミミって名前をつけて、毎日あいらびゅーって言うんだ」そんなことを考えていた。

 でも、そんなの想像に過ぎなかったよ。
 幼稚園から帰るといきなり三味線の音色を耳が痛くなるくらい聞かされて、気づいたときには前までお昼寝していた時間がすべて習い事になっていた。
 私、何か悪いことしたの?
 ほら見て、○○ちゃんも○○○ちゃんもお外で遊んでいるじゃない。
 そう、この瞬間、比べた時点で私は負けた。
 「爽茄様お琴の時間ですよ」
 「今日は○○様の舞を見に行きましょう」
 「さすが、お着物がよくお似合いです」
 「さあ、爽茄、舞の練習をするわよ」
 「お母様はお忙しくてお会いになれません」
 「冥道家の名にはじない跡取りになるのですよ」
 それでようやく気づいたけど、私の家は普通に比べてどーんと大きくて、家族じゃない人がたくさんいたみたい。

 「今度、跡取りのお披露目会をしますからね」

 これはいつかに言われたこと。
 跡取り、誰も踊れないようなきれいな舞を踊るお母様の跡取り。
 たしかにお母様の舞は蝶のように舞っているみたいで綺麗だけど私はそんな風に舞えない。
 たとえ、毎日練習を重ねても、お母様の舞を真似しても所詮、蛙のダンス。
 ひらひらと飛べない、あんなに綺麗じゃない、私だって気持ち悪いって逃げちゃう、私は蛙なのよ。
 舞が嫌いなわけじゃないんだけど、すきでもないし。
 でも、ただ娘ってだけで跡取りに決定。
 それは私にとって酷く大きい重しだった。
 たしかになりたいものもないし、お母様は尊敬してる。だけど、私より舞がうまい人は年下にもたっくさんいる。
 何で私が跡取りなの?お母様。
 私よりうまい人はたくさんいるわ。
 こんな蛙に踊れって言うの?
 それとも、
 それとも、
 こんなこと言いたくないけど、お母様は跡取りの舞のほうがうまくって自分が惨めに見えるのが怖いの?平気よ、誰も母様の踊りを超えることなんかできないわ。
 だから……。
 ごめんなさい、
 ごめんなさい、
 うまく踊れなくてごめんなさい。
 
 私は一生、足に鎖をつけ地べたをはいずりながら蝶を眺める蛙になるのでしょう。

 こんな話よくあるかもね?

 でも私はちょっと信じてる。
 よく見ると顔は蛙のほうが可愛かったりするもの。

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