宝物殿

□相互記念・カトウ様より☆
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 雪が帰って来た。それだけで自然と賑やかな食事は宴会に代わり、仲間の酒が進む。オイラの隣りには雪がいて、彼女の向かいに星宿様と柳宿。彼女を飛ばしたところに翼宿が位置していた。翼宿と柳宿のやり取りに雪が笑い、それにつられてオイラも笑ってしまう。そんな騒がしくも懐かしく楽しい席だった。
 そんなことを思っていたら、翼宿が雪に酒を勧め始めた。上手く断れない彼女に茶碗並々に注がれた酒を翼宿が無理矢理彼女の目の前に出す。
 まったく、質の悪い酔っ払いなのだ。
 口の中で止めて、翼宿の手にある杯を奪ってそれを喉に流し込んだ。喉が、熱い。


「お、井宿いい呑みっぷりやんけ」
「喜ばしいことではないのだ。まったく。雪にこんなに強い酒は勧めないでほしいのだ」
「ええやん。久し振りに会うてんでー?」
「関係ないのだ」


 へらへら笑う翼宿から出来るだけ雪を遠ざければ、向かいから苦笑いが聞こえた。柳宿も同じものを呑んでいるはずだが、彼はいたって素面である。「馬鹿ねぇ」と情けなくも笑う姿に雪も気付いたのか、くすくすと笑った。
 それからは最悪だった。翼宿は何故かオイラにばかり酒を勧めて、断れば雪へと向かう始末。仕方ないから翼宿から酌を受けながらそれを律義に喉に流し込んだ。
 やっと御開きになった食堂から抜けて、壁伝いに歩く。弱くはないが、あれだけ強いものをたくさん呑まされたのだ。おぼつかない足取りに自分で苦笑するしかない。
 不意に右手に温もり。驚いてそちらを見やると雪の両手がオイラの右手を包んだとこだった。


「だ、雪……」
「井宿、大丈夫? 酔いが回ってる?」


 心配そうに見上げる瞳を見て、ああ、本当に雪だ、と安心した。ゆるゆると壁に背中を預けて崩れるようにしゃがむ。彼女を引き寄せて、その小さい身体を包み込んだ。


「ち、井宿どうしたの? 酔ってるの?」
「んー、そうかもしれないのだ」


 慌てた言葉や声が懐かしい。愛しい。雪の手を頬に寄せたら、ひやりとそこが冷やされた。


「いつも雪に……」


 手のひらに唇を付けて今はオイラより高い位置にある雪を見上げる。恥ずかしそうに片手で頬を隠してそっぽを向く姿が可愛くて、やっぱり愛しくて。


「雪……」


 後頭部に添わせた手に力を入れて、唇を重ねた。ただ、長く。震えながらオイラの肩に落ちた彼女の手や一生懸命オイラに応える姿勢、その小さな身体で頑張るところ。ああ、もう何もかもが好きで愛しくておかしくなりそうだ。


「愛してる」


 囁くように零した言葉が喉の中でも熱を持って絡まって溶けた。


喉に熱く溶けた


(気持ちは膨れて熱を含む)





⇒感謝文等。
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