捧げ物
□また君に出会えたら
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旅の途中、激しい戦闘に巻き込まれた。決して劣勢ではなかったと思う。だからといって、気を抜いたつもりもなかった。
背後から感じた気配に振り向いた時にはもう遅く、傷を負った雪が倒れるところだった。
「……!!」
咄嗟に声も出ないほど、井宿は慌てていた。翼宿がすぐに鉄扇を振らなければ恐らく井宿も攻撃の的にされてしまったであろう。
矢が右腕を抉り、服が真っ赤に染まっている。涙をたっぷり溜めて震えながら痛みをこらえる彼女に止血をして、決着がついた頃に軫宿に託すのが精一杯だった。
これで安心だと一息ついたのも、つかの間の話。
「……治りが悪い」
低く呟いた軫宿に、傷跡を覗き込んだ翼宿が首をひねる。
「疲れとんやろ、明日またちゃんと治したらええやん」
「……それだけなら、いいんだが」
「今日はオイラがついて看ておくのだ」
「ああ……、雪、それでいいか?」
雪はまだ痛むのか、目を閉じたままで深く深呼吸をしてからひとつ頷いた。
──嫌な予感がする。
宿に入るまでも、入ってからも、雪に元気がない。寝台に倒れ込んで傷跡を押さえながら、しばらく呻いていた程だ。
「……大丈夫、なのだ?」
「平気……」
「随分熱を持っているようだが」
軫宿に貰った薬を優しく塗り広げながら、井宿は眉を寄せた。これは明らかにおかしい。
「言わなくていいから……軫宿には」
「だが……!」
「いいから!お願い、明日になったらちゃんと診てもらうから……」
ぎゅっと唇を結んだあとで、雪は続けた。
「お願い、離れないで傍に居て」
「……やっぱり、おかしいのだ……」
苦笑して、負傷していない左の手をそっと握った。いつもより握力のない手は、それでも必死で彼に応えようとする。
「このまま、眠れそうだから」
心なしか穏やかになった呼吸が寝息に変わるまで、確かにそう時間はかからなかった。