Parody
□白雪姫(もどき)
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「雪ー、美味い魚が釣れたぞ!これから料理してやっからな!」
「俺も手伝ったるで。火なら任せい!」
「お前この間ボヤ起こしただろ!!」
「まあまあ落ち着いて。食べ応えありそうな魚じゃん!ありがとうね、鬼宿、翼宿!」
鬼宿、と呼ばれた男は、満足げに魚を抱えて台所へと消えて行きました。翼宿も、勿論その後を追っていきます。
その様子を微笑ましく眺めているのは、白雪姫という少女。元々はお城で暮らすお姫様でしたが、父親である王様が新しく娶った継母に何故だか嫌われ、関係が良好ではありませんでした。
一人の家来が殺害を命じられていましたが、その彼が「どうか、正体を隠して生き抜いてくだされ」と深い森の中に彼女を隠し、一命を取り留めたのです。
そこで出会った七人の小人の家で暮らし始めたのが、つい数日前のこと。やんちゃな鬼宿・翼宿に、物静かで博識な軫宿・張宿。美しい女性と見間違うほどの柳宿・星宿。そして、いつもにこにこ笑っているムードメーカー的存在の井宿。
出会ってすぐに白雪姫の事情を聞き、匿う事を決めてくれたのも井宿でした。
「お姫様が一人で山の中で暮らすなんて、危険だし無理なのだ」と、言ったのです。
彼らには名前を聞かれた時に「雪」と名乗っているので、そのように呼ばれています。
魚が焼ける美味しそうな香りが立ち込めた頃、白雪姫はドアの開く音に視線を向けました。
「ただいまなのだー」
「お帰りなさい。今日も何事も無かった?」
「平和なものなのだ、安心しているといい」
「ついでに木苺を拾ってきました!搾ってジュースにしましょう!」
張宿が、他の皆よりもひときわ小さな手で、袋いっぱいの木苺を誇らしげに見せます。真っ赤に熟れていて、とても甘そうな木苺です。
「いいね、楽しみ!たくさんあって大変だから、私が搾るよ」
「はい!」
「あ、雪ちゃん。明日オイラ達は森の向こう側まで狩りに行くのだ。よければ留守番を頼みたいのだが……」
「うん、いいよ。じゃあその間に掃除とかしておくね。翼宿が柳宿に喧嘩打って開けた壁の穴も、塞がなきゃいけないし」
そう言った白雪姫に、井宿は少しもごもごと何か言いたげ。
それを見ていた軫宿が、部屋の隅から声をあげました。
「全員出払ってしまっても平気か?」
「え、たぶん大丈夫だけど……」
「君がここに来てから特に変な事は起きていないし、一応大丈夫だとはオイラも思うのだが……もし何かあったら」
「大丈夫だって、迷惑はかけないって言ったもの」
「……なるだけ早く帰るようにはするのだ」
食卓につくようにと、台所から翼宿が急かします。白雪姫はもう一度念を押すように微笑んで、小さな自分の席につきました。