Parody
□桃太郎
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「全くもうっ、なんであたしがこんな事をしなくちゃなんないわけ!」
衣類てんこ盛りのカゴを担いだ柳宿ばあさんがわめき散らかし、川にやって来ました。
勿論洗濯をしに来たのです。
「手が荒れちゃうわ……ん?」
ふと見た川上から、大きな桃が流れてきました。
「ラッキー!今月ピンチなのよね、あれならしばらく食い繋げるわ」
もはや洗濯などそっちのけ。柳宿ばあさんは桃を引き上げ、人差し指の先でクルクルと回しながら家路につきました。
家につくと、星宿じいさんが床に伏したまま、こちらを見ています。
「……おお、帰ったのか。早かったな」
「ええ、あなた。体の調子はどう?見て、川でこんなに大きな桃を拾いましたのよ」
「……すまないな、私がこんな体でなければ……電気代や水道代をケチって、川に洗濯なぞ行く必要はないのに……ゴホンゴホン」
「それは言わない約束でしょう、あなた。桃を切りましょうか」
「そうだな、腹が減った」
ごそごそと上体を起こした星宿じいさん。洗濯をサボったのはバレなかったようです。
柳宿ばあさんが包丁を持ち出してきて、得意の怪力とこの世への不満を込め、てっぺんから真っ二つにするべくその切っ先を振り下ろします。
「死ねえー!」
ざくりと桃は割れたのですが、途中で刃が止まり、はたと中を覗き込みました。
「……とんでもない殺気なのだ」
なんという事でしょう。中から、成人男性が姿を現したではありませんか。
包丁は彼の手で止められ、ぐぐぐと持ち上げられた柳宿ばあさんは、慌てて包丁を放り投げます。