Parody

□お帰りなさいませ、お嬢様。
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四方を高い塀でぐるりと囲んだ大きな屋敷は、然る大企業の社長のものである。


「──でぇりゃあああい!!」


その塀の内側で、ばちこーん、と漫画のような打撃音が響く。

綺麗に手入れされた緑の芝生に倒れ込んだ黒ずくめの男の頭の横に、やや崩したスーツを着込んだ三白眼の男がしゃがんだ。

「翼宿、」

名を呼ばれた男はまだ興奮冷めやらぬ様子でじろりと声の方を振り向き、声をあげた。

「井宿。こいつ侵入者」

「見たら判るのだ……死んでるんじゃないだろうな?」

「俺かて手加減くらいは出来る」

やや不愉快そうに顔をしかめた翼宿がその侵入者の後頭部を掴んで顔を覗き込もうとするのを止めに入ろうとしたのだが、井宿は背後から聞こえた小さな足音に背筋を伸ばして振り返った。

「……井宿、翼宿。そんな所で何してるのー?」

「雪様、お帰りなさいませなのだ!」

「お嬢!俺やったで、変なん捕まえたったわ!」

「君が言うとまるで特殊な職業みたいだから"お嬢"はやめるのだ、翼宿」

さりげなく雪の手から荷物を取りながら、何度も言わせないように、と咎める口調で井宿は言う。

とはいえ、無駄なのは分かりきっているのだが。

「じゃ俺はこいつを旦那様のとこに持ってって、褒めてもろてくるわ!」

「……君は本当に犬みたいなのだ」

首根っこを掴まれ引きずられていく男が、侵入者とはいえ少し気の毒だった。

「あんれぇー、井宿はん。この辺りで幻狼の声したんですけど……知りまへんかぁ?」

「今しがた、不審者を捕まえて嬉しそうに旦那様の所へ行ったのだ」

「セコム要りまへんなぁ」

頬に傷を持った"いかにも"な青年は、がははと笑う。攻児というのだが、屋敷の主人の気まぐれで翼宿と共に何処かから拾われてきた新人である。あの狂暴さと風体、適応力の高さからして恐らく普通の育ちではないと思う。

元々は井宿が最年少……というか、この屋敷の執事や手伝いは年寄りばかりであったのだが、年頃を迎えた一人娘の雪を過剰に心配した主人が更に翼宿と攻児を足し、三人もの執事という名の護衛をつけているのだ。

二人がやって来ると聞いた時「お前はとても優秀だが、戦闘には不向きだからな」と言われてつい、一体旦那様はなにと戦っておられるのですか、と聞いてしまったのを思い出す。確かその後は、くすぐり5分の刑に処された。

ぼんやりしてやや世間知らずの節があるので仕方ないかも……と、今になれば思う。
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