Parody
□JIN遊戯
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"具合が悪い"と彼女が言い出したのは、今朝早くの話だった。
半ば万能薬として使われている軫宿の薬も効かず、ただ状況は悪くなるばかり。困り果てた仲間達に対して星宿が提案したのは、とんでもない話だった。
「──この世の医術で治らないのならば、一度元の世界に戻るのはどうか?」
寝台の上できょとんと目を見開いた雪の顔が印象的だった。
「……成程。確かに彼女がいた異世界は、随分と発展したものだと聞いていますのだ」
「で、でも待ってよ!どうやって行くの?」
慌てたように上体を起こした雪を右手で制していると、星宿はそんな井宿に対して言葉を続ける。
「井宿、太極山へ行ってみてはどうだろう」
「太一君なら……或いは」
「何か知っているかもしれん」
やおら立ち上がった井宿は、いつものすまし顔で、壁に引っ掛けてあった笠へと手をかけた。
太極山へは、これを使えば直通である。するりと被った直後にはもう、目の前に美しい太極山の景色が広がっていた。
「──珍しいのう」
眼前に逆さで現れた師の巨顔に、井宿は糸目をじっと向ける。
「た……太一君、遊んでいる場合ではありませんのだ……っ」
「解っておるわい。なんじゃ、一人か?」
「だっ……そうですが、」
「馬鹿者、一人でどうにか出来るものではない。とっとともう一人、雪と一緒に連れて来んか!」
「だーっ!了解しましたのだー!」
よくよく考えたら、太一君に事情説明など野暮な話である。そんなことを思いながら再び笠をくぐると、井宿は雪を寝台から抱えあげて、何事かとざわめく仲間達へ声をかけた。
「何をするかは知らないのだが、もうひとり必要だそうなのだ」
「しゃあないな、行ったる」
案の定一番に名乗りを上げた翼宿を引き連れて、再び太極山へとトンボ返りする井宿。
腕の中では雪がふーっと深い息をつく。熱が高くて気が気でないのだが、表に出さぬように努めて太一君の話に耳を傾けた。
朱雀を呼び出さずして元の世界に戻るための手段はひとつ、七星士と太一君が気を合わせて送り届けてやること。
ただしこれは体力の消耗も激しいため、それなりの覚悟は必要だとも付け加えた。
「──ふーん。ほなとっととやろうや。なあ、ババア」
「お前は人の話を聞いておったか?」
「だ……でもオイラも、出来るだけ早くしたい気持ちは同じですのだ」
「ならば雪を挟んで、そこに並べ」
もう何も言うまい──そんな気持ちが見え隠れする太一君の言葉に従い印を結ぶと、師も同じ動作で翼宿と雪を促した。
「よいな、集中じゃぞ。雪は元の世界を思い浮かべる事、他には何も考えるな。下手をうてば、三人とも次元の狭間に永遠に飲み込まれてしまうからな」
「承知」
「では、」
雪を、元の世へ送り届ける。
色々心配は尽きないがやむを得ない。
そっと目を閉じた井宿は、ほんのりと体が暖まるのを感じていた。
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