企画

□いつか好きだと伝えたい
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真夜中にふと目を覚ました雪は、少し辺りが騒がしい事に気付く。

眠っていたのはいつもの寝台でなく、空き部屋にぽつんと敷かれた布団の上だ。

人の声がするのは薄い戸一枚隔てた隣の部屋で、隙間から僅かに明かりが入っている。それでようやく思い出せたのは、今日夕餉終わりからうっかり酒宴になっていたという事だ。何故そのような流れになったかは忘れてしまった。

強い眠気と怠さは恐らく、好奇心に負けて少しだけ飲んでしまったからだろう。幸い彼女は、吐いたり具合が悪くなる体質ではない。

体を起こしかけた雪だったが「やっぱりもう少しだけ」と思い直して横たえた。微睡みの中でぼんやり騒ぎを聞いているうち、意識が集中するのか会話の内容が分かるようになってくる。

「翼宿、あんた飲み過ぎ。……そういや雪寝かしてからどんくらい経った?」

「さあ……ただ、そこまで長く経ってはいないな」

最もよく通ったのは柳宿の声で、その問いに軫宿が応答している。

「よく寝てたわよねー、動かしてもだらーんと薄ら笑ったみたいに口開けて寝たまんまで、可愛いったらありゃしない」

そんなひどい顔をしていたのかと醜態を恥じたのは一瞬。そこから完全に話題は雪の事になっていたからだ。

自分のいないところで何を話されるのか、気になって仕方ない。目こそ閉じたままだが眠気もすっかり何処かへ行ってしまった。

「ねえねえ翼宿。あんた雪の事どう思う?あたしはねー、可愛くて可愛くて仕方ないんだけどぉ。信頼されてる感がたまらないのよね」

ここで、柳宿も大層飲んでいると判断できる。

「はあ!?うっさいわ、俺に振んなっ」

「何さ、あんたいつもべったりじゃない」

「そらお前……年もそない離れてへんし。別に何か意識しとるわけとちゃうし。ちゅーかべったり言うほどやないしっ……、くそっ」

ふてくされたような、歯切れの悪い台詞だった。改めて思えば確かに翼宿は接しやすくて、いつの間にか一緒にいることも多い。雪が彼を異性として意識したことはないが。

「年齢云々って言うなら、たまちゃんだってそうじゃない?雪がこっちで最初に会ったのってたまちゃんよね」

「あ?ああ、そうだよ。あの時の必死さは思い出すと今でも笑えるけどな、今じゃすっかりたくましくなっちまって」

「その日の事ならば、私も覚えているぞ。私を見た時のあの見惚れた目……素直ないい娘だと直感したな……雪を巫女に選んだ朱雀の判断は正しかった」

「あのう、星宿様。少し飲み過ぎでは……」

張宿の小さな声に、星宿が続ける。まだまだこの話題は終わらないようだ。

「何を申すか、張宿とて雪は素晴らしい女性だと思うだろう?」

「へっ!?あっ、えっと……、僕はその……」

「星宿様、張宿はしらふなのでそのくらいに……」

最終的には軫宿にまで諌めるような言葉をかけられたが、星宿は何事かつぶやきながら笑うばかりだった。

その少し遠くで柳宿と鬼宿がまだ翼宿をいじっているようだが、そちらもはっきりとは聞こえてこない。「あぁ!?」だの「お前いっぺんしばいたろか!?」だの、聞き取れるのはそうして翼宿が声を荒らげる瞬間だけだ。
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