企画
□幸せになってもいいよ
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翼宿が首を伸ばし、城門の方を眺めている。その姿がやけに滑稽で、雪は思わず小さく吹き出して笑った。
「……なんやお前は。失礼なやっちゃな」
「ははっ、ごめんごめん。向こうに、何かあったの?」
「あー。井宿の奴がな、今一人でふらふら外出て行きよってん。せやから、何しに行くんかな思て」
「井宿が? ……ああ、そういえばさっきから中に居なかったなぁ」
「お前になんも言わんと出ていくとか、実は浮気やったらどないするぅー?」
ニヤニヤと口角を上げて、翼宿が煽る。後をつけろ、と言いたいのを我慢しているに違いなかった。
「……井宿に限ってそれは……今朝もいつもと変わらなかったし……」
「アホやな、"井宿"やで?」
「…………」
何が言いたいの、と雪は目を細める。
「あいつほど隠し事が上手い奴もおらへんやろ」
「それはまあ、確かにそうだけど──。でも関係ないね、私は井宿がどこで何をしようが、縛り付けたりはしない」
そう豪語するなりくるりと踵を返し、前進していく。翼宿がまだ口元を緩めている理由は──
そんな雪の足が、しっかり城門の方へ向いていたからだった。