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□おやすみ
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虫の鳴き声が響く、涼しい秋の夜。――そのはずなのに、雪は脂汗をかいて飛び起きた。
ああ、嫌な夢を見た。
どうやら今はまだ夜中、静かな部屋に自分の息づかいだけが響いている。まだ眠らねばとすぐに布団を被り直して目を閉じてみたが、どうにも落ち着かない。
困った雪はしばらく考え込んだ後で、なにかを決心したように立ち上がった。
……部屋の扉を開けると、しんと静まり返った廊下に出る。こんな時間だ、当然誰の気配もない。
雪は足音をたてないように、ある部屋の前までやって来た。
それから深呼吸をひとつして、細心の注意を払って扉を開ける。
「…………」
部屋の奥の寝台には、こちらに背中を向けて眠っている恋人の姿があった。
「井宿、お邪魔しますよー……」
小声で呟き、寝台を覗き込む。
彼が眠っているのを確認して、そのままそっと隣に空いた隙間へ、背中合わせに潜り込んだ。
普段の雪なら到底考えられないような行為だが、どうにも今夜だけは一人で眠れそうになかった。
「……ふぅっ」