Normal

□おやすみ
1ページ/7ページ

虫の鳴き声が響く、涼しい秋の夜。――そのはずなのに、雪は脂汗をかいて飛び起きた。

ああ、嫌な夢を見た。

どうやら今はまだ夜中、静かな部屋に自分の息づかいだけが響いている。まだ眠らねばとすぐに布団を被り直して目を閉じてみたが、どうにも落ち着かない。

困った雪はしばらく考え込んだ後で、なにかを決心したように立ち上がった。

……部屋の扉を開けると、しんと静まり返った廊下に出る。こんな時間だ、当然誰の気配もない。

雪は足音をたてないように、ある部屋の前までやって来た。

それから深呼吸をひとつして、細心の注意を払って扉を開ける。

「…………」

部屋の奥の寝台には、こちらに背中を向けて眠っている恋人の姿があった。

「井宿、お邪魔しますよー……」

小声で呟き、寝台を覗き込む。

彼が眠っているのを確認して、そのままそっと隣に空いた隙間へ、背中合わせに潜り込んだ。

普段の雪なら到底考えられないような行為だが、どうにも今夜だけは一人で眠れそうになかった。

「……ふぅっ」
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ