Normal

□酔いどれ退治奮闘記
1ページ/5ページ

「雪の事は、オイラが命に代えても護るのだ……朱雀七星士の名にかけて……!」

目の前に立った男は、一瞬怯んで、すぐに怒鳴り声をあげる。

「……俺らも朱雀七星じゃい!ボケ!」

雪を背に庇った井宿は、ふんと鼻を鳴らしてその場から消え失せた。





一時間くらい前の事だっただろうか。誰かが言い出して宴が始まったのだが、その日の酒はどうにも悪酔いする風で……井宿は一口飲むなり杯を置いた。

しかし何故か仲間達は次々と飲み干していて、豪快に瓶から直飲みした翼宿がぶっ倒れたのを皮切りに、連鎖反応を起こしたようにバタバタと伏してしまった。

「だ!?言わんこっちゃないのだ……!」

素面の井宿と雪が慌てて駆け寄って体を叩くが、うわ言が返るばかりで反応は薄い。

「鬼宿、軫……」

「きゃあああ!?」

突然の悲鳴に井宿が振り返る。

「ゆ、雪……!」

「た、たすけて……!」

翼宿と柳宿に服を握られて身動きが取れなくなっている雪が、必死に訴えかけている。

「もー飲まれへん……。雪、部屋まで連れてってぇなあ」

「無理なのだ!」

思わず雪に代わってそう叫ぶが翼宿の暴走は止まらない。柳宿も何やらぶつぶつ言いながらまとわりつき、雪の頭を撫でまわしている。

翼宿はともかく、柳宿は酒に強かったはず──やはり、あまりいい酒ではなかった。

「ち、井宿ぃ〜……」

戸惑いながらも助けを求める雪。

「だぁ、もうっ……」

深くため息をつき、近付いて二人を振り払う。世話が焼けるどころの騒ぎではない。

「雪、何処も触られてないのだ?」

「さ、触られた、って……」

「人聞きが悪いわよ、井宿」

「せやなぁ……。ちゅーかお前な、雪はお前だけのモンとちゃうで」
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ