S H O R T
□孵化
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<<あっ、たった今特別天然記念物に指定されたトキの卵が孵化しました!!>>
『ねぇ英士、トキが孵化したって!!』
「……よかったね」
『ちょっと、嬉しくないの?』
私はわざと膨れてみせる。
「そこまではね…;でも、」
『何?』
「孵化っていうか…
《孵る》って言葉は好きだけど。」
『え?英士の嫌いな蛙の卵も《孵る》のに?』
「うん。蛙の卵は見た目も理解し難いし」
『確かに……;』
「しかも蛙って卵産んで放置するじゃない」
『?うん』
「両生類はみんなそうなんだろうけど…
さっきのトキなんか巣でずっと卵を温めてるでしょ」
『うん、孵るまでずっと』
「なんかそういうのいいなって思う」
『あ、わかるかも』
「それに《孵る》って人間の抱く《好き》って気持ちにも通じる気がして」
・・・ある拍子に、誰かが誰かを気にかけるようになる。
時間とともに、
《気になる》って気持ちは温められて、温められて。
その気持ちはやがて、
その人の心の中で、
《好き》っていう気持ちとして孵る。
「そう考えたら」
『なんか、いいね?』
2人で静かに笑う。
ねぇ、英士。
私の英士への《好き》って気持ちはこれから先、
私の心の中で温められて、温められて、
《愛してる》って気持ちに、きっと孵るよ。
これから先、英士もそんな風に私を想ってくれたとしたら・・・
それって、すごくいいね?
END +