短編

□クルルのカレー屋でバイトするとこうなる
1ページ/2ページ




最近稼ぎが少ない。
とある理由で金を用意しなくてはならないのだが、通帳の数字は実にさびしいものだった。
困った。働かなくてはならない。
いい金稼ぎがその辺に転がってないだろうか。
金稼ぎと考えてクルルを思い出した。
いやいや、いくらこつこつ稼いでいる奴でも、頼る相手としては最後の手段だろう。痛い目を見そうだ。

ケロロ小隊とはオカルト研究部の見学をしてる途中で知り合った。
アンチバリアという光学迷彩が私には利かなかったようだ。
宇宙人のわりに順応しまくっているその姿には、恐怖や驚愕を通り越して呆れてしまったのを覚えている。

もう知り合って数年になり、彼らとも馴染みになった。
基地に入り、クルルのラボにて寛ぐのも慣れたもの。
クルルは気に入らないようだけど。

「なんかようかよ」
「別に。場所貸して」
「よそでやれ」
「煩くしないからさ。気にしないでよ」
「チッ」

クルルは居たたまれなさそうに舌打ちをした。
気にせず私は手持ちのバイト情報誌を眺めた。

クルルのラボは学校の図書室ばりに静かな場所であり、滅多な訪問客も来ない分穴場だ。
それにバイトの情報で迷ったら彼に聞いてみようと思う。機嫌が良ければアドバイスをくれるだろう。
我が家顔で寛ぐ私がやっぱり気になるのか、クルルは今一度口を開いた。

「バイト探してんならいい仕事があるぜぇ〜?」
「なに」
「ちょっと着替えてカメラでぱしゃぱしゃっと」
「変態」
「働く気あんのか。ちょっとは自分を犠牲にしろ」
「質が悪いでしょ!そんなバイトやんないよ!」

やれやれと首を振るとクルルはモニターに体を戻す。
ぴんときて私は呼びかけた。

「そうだ。そうだよ、こんないいバイトが!」
「んだよ…どうせなら動画撮るかい」
「撮らねえよバカ。じゃなくて!クルルのカレーを売ればいいんだよ!売り子は私!どうよこれ!」
「は?いきなりなんだって…俺様のカレーを売る?」
「そう!クルルのカレーって美味しいし、クルルのメカがあれば客引きだって楽なんじゃないかな」
「…そんで、お前が売り子…」
「そう!この際メイド服だって着てもいいや。儲かればクルルも私もオイシイじゃない。グッドアイディア!」

メイド服、と零したところでクルルは、言ったな、と言わんばかりに眼鏡を光らせてにやりと笑った。

「面白そうじゃねぇか、ノッた」
「決まり!」
「クーックックック!」

こうしてクルルと私は結託し、カレー屋さんを開く計画をした。







某日空は快晴で、良きバイト日和だった。
朝早くからクルルが手配してくれた公園の一角の、許可を貰ったスペースに店を広げる。
厨房と飲食エリアを設置したり、メニューの確認をしたり、ぶっつけ本番なのでやることは多い。

野外ということもあり、クルルも地球人に成り済ますスーツとやらを着てカレーを作っていた。
金髪で長身で赤目で格好良くて、正直目の毒なのだけど見なければどうということはない。
なによりクルルが傍にいるということが想像以上に心強かった。

私はというとクルルが用意してくれたメイド服を着ていた。
丈が短く、フリルが付いていていかにも可愛らしいデザインの服だ。
普段なら着ないけど、今日みたいな仕事で着るコスチュームなら楽しくなる。

事前にクルルが広告宣伝をしていたおかげか、即日販売のわりに結構人が集まってきた。
客をテーブルに案内して、注文をとって、料理を運んで、会計も済ませる。
所々クルルのメカを使ってはいるが、走り回るのは私一人。いやあ重労働だ。
だがこれも売り上げのため、お金のため。
営業スマイル超発動で私は働いた。

カレーの評判は大層良く、さすがクルルの味付けといったところだった。
客の少ないときにぱぱっと賄いカレーを食べさせてもらったが、やっぱり美味しかった。

「午前の売り上げにしては上々だぜぇ」
「そっか!この調子だったら完売も目じゃないね!」
「おう。午後も飛ばしていこうぜ」
「うん!」


しかし問題が発生した。
午後の昼食時を過ぎたころ、柄の悪い男子学生グループが現れた。
注文をとり、料理を運んだのはいいけど、やたら絡んでくる。
髪を染めたり派手な服を着たりと個性的で、正直怖くてならない。
だが今はお客を相手にしているのだと気を奮い立たせる。

「キミかわいーね。バイト何時に終わるの。俺らとどっか行かない?」
「普段なら女の子とか誘わないんだけどさ、キミ見て遊んでみたくなっちゃった」
「ね、いいとこ連れてってあげるから。だいじょーぶ。楽しいよ」

カレーを食べ終わってもテーブルから離れず、私に絡んでくる。
営業スマイルと営業マニュアルセリフで乗り切るが、なかなかしつこい。
どうやらクルルの作ったメイド服とその露出が、若い青年を誘ってしまうようだった。
そのうち諦めて帰ってくれることを願うが、他の客の迷惑になるようなら考えねばなるまい。
大丈夫だ。こっちにはクルルがいるんだから、いざとなればどうにでもなる。

「無視しないでよ、お喋りくらいいいじゃん」
「!」

不意に手首を掴まれ、驚いた私は営業スマイルもマニュアルも度忘れした。
男の冷たくごつい手、アンティークな銀の指輪が私の手首に触れていて不快だ。
怯えた私を見て快く思ったか、男たちは下衆な笑みを浮かべた。

だがその笑みは次の瞬間歪に歪む。
手首を掴む男の手が離れていき、隣を見るとクルルが厨房から出てそこに立っていた。

「どうかしましたかぁ?」
「あ…ぐ…ぐ」
「カレーは美味しかったですかぁ、そうですかぁ、またいらしてくださいねぇ」

クルルは冷ややかな笑顔で男たちに会釈する。
手元にはなにやら怪しげな装置を握っている。
なるほど、仕組みは分からないが、非暴力的に、いやある意味暴力的と言ってもいいかもしれないが、クルルが男たちを追っ払ってくれているようだった。
ぎこちない動きでお金を置き、男たちは帰っていった。

「ありがとう、クルル。怖かったぁ…」
「ふん。気をつけろよ」
「…おや、クルルさん。お代、これ、ちょっと多いみたいなんですけど」
「迷惑料として貰っとけ」

有り金全部置いていかせたクルルは、当然という顔で厨房へ戻っていく。
喜ぶべきか呆れるべきか迷うところだ。
でもクルルが来てくれたことに、私は本当に感謝していた。

あの男たちが去ってから特に大きなトラブルもなく、その後も客足は盛況だった。
日が暮れるころカレーは完売し、後から来た客に惜しまれつつ店仕舞いをした。
寂しい気もしながらメイド服を脱ぎ、私は達成感に浸った。







クルルズラボに戻り、私とクルルは小さな打ち上げをした。
カレーと惣菜をつまみに、二人でお酒を飲む。
終日働いた後のお酒ほど美味しいものはないね。

「おつかれさま!いぇーい!」
「疲れた。二度とやりたくねぇ」
「楽しかったじゃん。稼ぐとはそういうものだよ」
「えらそーに。ま、たまにはいいかもな」

酒を煽り、互いに労わる。
売り上げはまさに最高といっていい金額になった。
二人で分け合っても十分な額だった。
多少のトラブルはあったが、やってよかったなと思う。

ほくほくしている私を見て、クルルは呆れたような嬉しそうな顔をしている。

「クックック…」
「な、なによ」
「その金、引越しにあてんだろ」
「う、うん」
「ふぅん」

クルルは興味薄そうに鼻を鳴らす。
どうやら気づかれていたらしい。
そろそろ家族の下を離れて一人暮らしを始めようと思っていたのだ。
そこで先立つもの、お金が必要になった、というのが始まりだった。

まだ私は若輩者で、家族も一人暮らしに難色を示している。
後ろめたいところを突かれた気分であり、私はクルルを前に縮こまった。

「別に止めねぇよ分かってたしな。せいぜい苦労するこった」
「…うん。頑張る。家借りたら呼ぶね!」
「行くに決まってんだろ」

平然とそう言うクルルに私は可笑しくて笑った。

いつでもクルルは優しくて、私の味方で居てくれる。
貰ったものはお金だけじゃない、不器用だけど真っすぐな彼の気持ちも。

それを糧に私は新生活を始める。
そう、人生はこれからだ。

「これからも、よろしくお願いします」
「んだ急に改まって」
「えっへっへ!」
「…クックックー!」

この先もこうしてずっと、クルルと笑ってあっていたらいいな。
なんて些細な幸せを願ったりした。





END.
後書→
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ