短編

□ウェイバックミスタージェイ
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へこんだ。
仕事でミスをしてしまい、こっぴどく叱られた。
自分の力量を分かっているだけに、その未熟さに辟易する。
どうしてうまくいかないんだろうか。

帰り道、私は屋台で購入した焼き鳥を咥えながらとぼとぼ歩く。
夕日があたりを赤く照らし、ノスタルジックな雰囲気を出していた。

ふと前を見ると、影を長く伸ばしたケロン人がいた。
よく見るとそれはジョリリで、いつもと変わらない顔をしてこちらを見ている。
気分が落ち込んでいる時に人に会いたくないんだけど。
そう思いつつも私は帰り道を進んだ。

ジョリリとはたびたび会う。
最初は宇宙人に会ったと戦々恐々としたものだが、ケロロ達が後から現れて、滑稽な侵略者風情だと知れて安心した。
妙な縁というか、偶然か、それともジョリリが気にかけてくれているのか。
今日だって、焼き鳥を狙って現れたかもしれない。
それほどジョリリは不可解な宇宙人だ。

「こんにちは」
「よぉ、奇遇だなぁ」
「どうしたんですか、こんなところで」
「俺ぁ今から帰るところよ。お前は?」
「私も帰るところですけど」
「そりゃいいや。一緒に帰ぇるか」
「はぁ」

並んで歩いてはみたものの、私だけ焼き鳥を食べているのが気まずい。
嫌いじゃないだろう。むしろ好きだろう。このおやじっぽさなら。
ジョリリの歩幅に合わせながら歩き、焼き鳥の入った袋を彼に差し出した。

「焼き鳥、いかがですか」
「お、タレか。いいのか、もらうぜ」
「どうぞどうぞ」
「それにしたって買い食いで焼き鳥って、OLっぽくねーな」
「……いや、まぁ、いいじゃないですか」

OLで焼き鳥買い食いして何が悪い。
宇宙人相手に張り合うのが面倒臭くてなおざりに返す。
焼き鳥のネギマを頬張りながら、ジョリリは私を見上げる。

「明日は明日の風が吹く、って言葉知ってるか?」
「え…、はい」
「つまりこういうこった。風が吹いたら陸上競技は新記録が出やすい」
「…成程。なんで今言うんですか?」
「思ったことはすぐに言え。それが明日に続くってもんよ」

ふとこういうことを言えるジョリリって、大人なのか変人なのか。
ジョリリはその黒い大きな瞳で私を見ている。

「もう一本いいか」
「あ、はい。どうぞ」

焼き鳥を差し出すと、うまそうに頬張っている。
正面を向くと、今にも夕日が落ちようとしている。
明日には明日の風が吹く、ねぇ。
私にも風が吹くかしら。
そうしたらまた、頑張ってみようかな。

「ジョリリさん。ありがとう。なんだか私、元気が出てきました」
「そりゃよかったな。なんでもやってみな」
「はい」
「あ。そうだ、これをやる」
「え?」

ジョリリはどこからかレジ袋を出し、中から缶ビールを手渡した。
ビールをくれるのか。
実に妙な、ジョリリらしいといえばらしいが。

「あ、ありがとうございます…」
「俺にいわせりゃビールの泡は二割が宜しいってな」
「おいしいって言いますもんね」
「つまりこういうこった。いつでも二割が必要不可欠」
「そんなに必要ですか、泡」

でも確かに蟻の怠け者の割合も二割だとか。
巣から怠け者の蟻を除外しても、またそのうち二割が怠け者になる。
それは、巣において怠け者が必要だからだろうか。
ジョリリは私にたまには怠けろと言ってくれているんだろう、それが必要だと。

「いやあ、ジョリリさんは深いなぁ。ある一面尊敬しますよ」
「そうか〜」
「…なんでジョリリさんなんでしょうね」
「は?」

いつでも現れて私を励ますのはジョリリだ。
彼は私の事が好きなんだろうか。
いや、きっとたぶん、それは違う。

きっと彼は、意図せず、私の救世主なんだろう。

「なんでもありません。ジョリリさん、イケる口ですよね?私の家で酒盛りしません?」
「お、いいのか?行くぜ」

こんなに傍にいて安心する人、ほかにはいない。
へこんでも怒っても大丈夫。
彼が私にいつも、助言をくれるから。

明日を怖がらずにまた歩き出せるだろう。





END.
 

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