短編

□もたれるぬくみ
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トロロ新兵のお手伝いを朝方までつき合わせられ、私は眠くてくたくただった。

あくびを噛み殺し、礼節を徹し退室し、ふらふらする視界の中を歩く。

渡り廊下からは鍛錬場が見えてそこに見知った影があった。

どうせ今寝ても後寝ても眠いことに変わりない。

極限の睡眠不足が不可解な理屈をこねていた。


鍛錬場につくと、朝早くから鍛錬に励む突撃兵が多くいる。

中でもど派手な光線を目から出す彼はとても目立った。

そこら辺にあるベンチの一つに座って見ていると、彼…タルル上等兵が気づいて歩み寄ってきた。

ねむけ眼を擦りながら見上げると、鍛錬で汗まみれのタルルが尋ねてくる。



「どうしたっすか?こんな朝早くに」

「徹夜で、寝損なってる」

「なら部屋で寝れば…」

「遠くて…寝過ごすし…」



暗にここで寝たいと言うと、タルルは困った顔をした。

ぼやける視界で見えなくなる。



「オイラはいいっすけど…他の人は…」

「皆集中してるから気づかないと思うよ」



そうっかな〜と頭を掻きながらタルルは溜息を零す。

彼の肌はつやつやで早寝早起きの賜物と見た。

対して私はというと、人遣いの荒いトロロのせいで女の影すら薄いんじゃないだろうか。

なんだこの差。頭脳労働者って損なのか。

早寝早起きって何それオッサン?さらに老けて見えるよタルル。



「でもやっぱりここで寝かせるわけにはいかないっす。ちゃんと温かい布団で寝なきゃあ」

「寝過ごすから…」

「そんなの、オイラが起こしてやるっすから。鏡見ました?」

「怖くて見れない」

「はは…隈出来てるっすよ」



タルルはそういうと倒れたように座る私を横抱きにし、持ち上げた。

テンションが低く、眠さが限界の私にはこのときのポーズの恥ずかしさを認識できない。

ゆらゆらと揺れる視界にやっと運ばれていることに気付く。

悪いなぁ、と思いつつタルルの優しさにとうとう眠さもぎりぎりで、遂に瞼が落ちた。

安定した腕の強さに、男の子なんだな、いまさら関心して…。

後は意識が飛んだのでよく覚えていない。



「あー…いい顔で寝ちゃって…オイラ添い寝してやろっかな…」






END.

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