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□スズラン
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必ず、俺は戻ってくる。
小さくて、低くて、掠れていて、途切れ途切れの声。
朝日を浴びて言うゾルルの瞳はぞくりとするほど赤かった。
出会いというにはあまりな出会いだったのを思い出す。
平日で、私は仕事帰りで、夕方に帰れたとしても昨日は職場で徹夜をしたためとても疲れていた。
部屋に入り、直ぐにでもベッドに倒れこみたいのを我慢して、買ってきたおにぎりを口に押し込んで、風呂を沸かす。
テレビをぼーっと見ていると夕陽が作る影が奇妙な形なのに気付いた。
視線を上げればベランダの手すりに立つ、灰色で半身が機械化されている生物がいた。
吃驚して短く悲鳴を上げると、その生物はゆっくりと振り返った。
隻眼は白目部分が黒く、黒目部分が赤い。口の部分も包帯を巻いたような口布をしていて、恐怖を煽った。
ゆっくりとまた夕陽に顔を向けたその生物は、ベランダの下を見つめている。
私は無意識の内に窓を開け、飛び降りようとしたその生物の手をとった。
ぶらん、と摑まれた右手を生気なく見つめながら、生物は不思議そうに私に視線を移す。
見たことも無かった生物への恐怖はちょっとだけ薄れていた。
よいこら、とその生物を引き上げて部屋の中に入れたのだった。
その生物が言葉を話すのにも驚いたが、宇宙人だと聞いて更に驚いた。
名前はゾルルというらしく、宇宙の果てにある星のケロン軍で暗殺兵をしているのだという。
地球に来たのはある作戦の為と話してくれた。では、なぜ私の部屋のベランダに居たのだろう。
訊くとゾルルは、好敵手と久しぶりに刃を交えようとしたら、忘れられていた、という。
何を言ったら差し支えないか考えていたら、ゾルルはその隻眼から一つだけ涙を零した。
黒と赤の眼から零れたなんて信じられないくらい透明で、水のようだ。
私は急にこの宇宙人に愛しさを覚え、胸が締め付けられるような気持ちになり、勢いのままゾルルに抱きつき、酷いね、とだけ言った。
同情といえば、そうだったのかもしれない。
でも不器用な彼には安心できる場所が必要だと思った。
だけど私のほうがゾルルに安心してしまい、風呂を沸かしていたのも忘れて、私はゾルルの傍で寝てしまった。