短編

□エクスクラメーションタイム
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すこしだけ勇気を出して、いつもと違う道を歩いてみる。
そんな日の下校はちょっとした冒険だ。
見慣れない町並みを眼をくるくるとさせながら歩くのは気持ちがいい。
新しい発見の連続で、誰かに教えたくなるような興奮がある。

そうして歩いていると見つけた、暗い路地。
ビルとビルの間にある隙間に、人影がいくつか見えた。
もみ合っているようで、微かな喧噪が聞こえる。

怖いもの見たさで近づくと次第に人の顔がよく見えてくる。
一人は少し背の高い女性で迷惑そうに声を出している。
後の数人は男性で、どうやらその輩が女性にちょっかいを掛けているようだった。

ざわざわと胸が騒ぎ、今すぐどうしたらいいのかを迷わせる。
人を呼ぼうかと目をあちこちに走らせるが、頼りになりそうな人はいない。
走って警察を呼んでこようか。
それともあの中に飛び込んで、無謀かもしれないけれど牽制を試みるか。

無意識に脚は動き、路地に靴底を踏みこませる。
すると視界はカッと眩く光り、思わず私は瞼を瞬かせた。
眼が白黒とする。光の残像にいつまでも眩んでいる。
足音がして頭を上げるとそこには、倒れている男たちの中央で立つ、さっきまで絡まれていた女性がいた。
此方に気付いた女性は首を傾げ、怪訝そうに眉を潜める。

「…なにしてんだ?お前」

女性はくるくるとした金髪と、オレンジのセーラー服を着ていて、何処かで見たことがあった。
赤い目に、メガネ、そして前髪に乗っかった、うずまきマーク。
あっと声を上げると、彼女…彼は少し驚いた顔をした。

「クルル…子!? どうしてこんなところに!」
「それ俺様のセリフだけど。俺は買出しに出てきてたんだよ」

日向家に居候している宇宙人、クルル曹長は専用のスーツを着て、人間の姿に擬態が出来る。
クルルは好んでなのか、それしかないのか、この『クルル子』によく変身していた。
見た目の可愛らしさと反して、男らしい常のクルルの口調はどうにも似合わない。
知り合いのいつもと違う格好は滑稽だが、さっきまであった状況に混乱する。

「…さっきの男たちは…」
「…あぁ、あいつら。取引してたんだが足元見られてな、ちょい強引にいかせてもらったぜ」

そんな格好をしているからではないかと思ったが、それもクルルの作戦だったのかもしれない。
ちょっといつもと違う道を選んだだけで、とんでないところを目撃してしまった。
茫然とする私を見下ろしながら、クルルは口元を更ににやりとさせる。

「で?お前はなんだよ」
「へ?」
「だから、どうしてここにいたんだ?」
「あー…だから…女の人が乱暴されてると思って…」
「…それで一人で突っ込もうとしたわけか?」

無謀だと解っていたが、体は動いてしまったのだ。
頷くとすぐに上から、ばっかじゃねぇのという声が降ってくる。
ぐうの音も出ない。
苦々しそうに目元を鋭くしたクルルは、苛立ち混じりに舌打ちをした。

「俺様だったから良かったものの、他ん時は無茶なことしねえで人を呼べよ」
「ごめん…でも、クルルも無茶じゃん」
「ああ?なんでだよ」
「地球人の女の子の力って結構非力なんだからね。それに変身するなんて」
「けっ くっだらねぇ。非力も忠実に再現するわけねえだろ」

クルルは聞く耳を持たず、路地から出て行きながら、ああだこうだと文句を言っている。
それでも私は、相手がクルルだと思った後も心配したのに。
余計なお世話なんだろうか。
クルルは振り向き、大袈裟にため息を吐くと、私の腕を掴んで路地から引っ張り出した。

「わーかったよ。お互い様ってことでいいだろォ?」
「…うん」
「クックー」

笑うとクルルは私の手に自分の手を絡ませて、歩き始めた。
何をしているのかと焦るが、クルルは機嫌よさそうにしている。

「丁度いい。これからデートとしゃれこもうぜぇ〜」
「デ、デート!?クルル、買出しは?」
「んなもん終わった。こっからはフリーだ…クーックックック」

クルル子の指先は丸くて、ほそっこい。
正にアイドルな彼女に引っ張られて、なんか妙な気持ちだ。

いつもと違う道を選ぶということは、いつもと違うことに出会うということ。
会うか、遭うかは、運次第だけど。

きっと思いがけない時間が過ごせるんだろう。





END.
 

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