薄桜鬼
□初夏の雨【沖田総司】
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――…
夏の暑さを含んだ風がそよそよと流れる早朝。
今日は朝から空を雲が覆いつくし、眩しいほどに照りつけるはずの日の光が少しも見えない。
…今日は朝っぱらから雨が降りそうだなぁ。
まだ布団に入ったまま、ごろんと寝返りをうつと、隣にすでにたたまれてある布団が目に入った。
こんなに早い時間でも、もう千鶴は起きているんだ…。
律儀な彼女に感心しながらも、もう一度寝に入ろうと瞼を閉じてじっとしてみるが、なぜだかすっかり眠気は失せてしまっている。
寝つくこともできず、しばらくごろごろしていると、 不意に襖の向こうから湿った土の匂いが漂ってきた。
細かい雨の降る音が襖を越えて僕の耳にも届いてきた。
夏の雨はじめじめしてるくせに、あんまり涼しくなかないから好きじゃない。
早く止んでくれないかなぁ…
そんなことを思っているうちに、だんだんと意識が遠のき、やがて微睡みの世界へと落ちていった。
――…
「総司、体の状態はどうだ?」
しっかりと聞こえてきたその声に目を開けると、どこかで見たことのある天井が映った。
目線だけを横に移してみると、にっこりと笑みを浮かべた近藤さんを見つける。
久しぶりに見たその顔に、僕は嘘偽りのないまっさらな笑顔を浮かべる。
ただ、なぜだか僕の体は指一本を動かすのも億劫で、普通に呼吸をするのも正直辛い。
僕は、今本当に笑えているのかな――
「全然平気ですよ。
それこそ、今からでも刀を持って一緒に戦えます」
そんなのできっこない――
今も、上体を起こそうとはしてみたが、身体の節々が軋んでいるような感覚を覚え、無理して立ち上がろうとすれば骨がぽっきり折れてしまうのではないかと思うほどだった。
そのことを近藤さんも分かっているのか、微かに悲しみの色に染まった笑顔を作るだけで何も答えてくれない。
そして笑みを消し、真剣な表情になると、うつむき加減に目を落として話を切りだした。
「実はな、総司。
俺達はこれからこれから甲府城へと向かう。会津藩からの命で甲府城をお護りせよとのことでな。
そこでおまえのことなんだが…トシと話し合って連れていくのは止めようということになった」