薄桜鬼
□白銀の刺【沖田・斎藤】
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――…
まだ冬真っ盛りなこの頃。
銀に煌めく雪が朝早くから降り続き、空は鉛色の雲に覆われ、どんよりとしていた。
朝飯を済ませ、ちょうど非番が重なった沖田総司と斎藤一は、何をするでもなく縁側へと腰を降ろし、ただ降り積もる雪を眺めていた。
すでに縁側の向こうは白い世界へと変わり始めている。
全てが純白に染められるその様子は、どこか儚げで、どこか綺麗だと、一はぼんやり思った。
不意に己の名前を呼ぶ声が聞こえ、声の先へと視線を向ける。
そこには、いつもの笑みを浮かべた総司が、柱に背を預けて同じく外の景色を眺めている姿があった。
「一くん、雪って好き?」
総司の、このような突拍子のない発言に、一はもう慣れていた。
こちらの考えていることを読んでいるのかいないのか、時々予想だにしないことを言ってくる。
今回はおそらく、ただの気紛れで聞いてきただけだろう。
その証拠に、聞いてきた総司は一のほうを見ないままだ。
「…綺麗だ、とは思う」
「一君、それ質問の答えになってないよ」
一の率直な答えに、総司はようやく一を見て苦笑を浮かべた。
「好きか嫌いかで答えれば、嫌いではない」
「素直じゃないなぁ」
まぁ、確かに綺麗だけどね―――と付け加えられた総司の言葉をよそに、一は先日の事件を思い出していた。
事の成り行きは、羅刹隊に所属する二人の隊士が逃げ出したことだった。
羅刹は、身体能力や回復力が向上する代わりに、血を欲するという厄介な短所をもつ。
今回隊士が脱走したのも、人の血を求めたが故と見て間違いないだろう。
その隊士たちの処分――つまりは息の根を止める役目を任されたのが、総司と一だった。
羅刹と言えども、組長二人――それも、新選組の中でも1、2を争う強さを持つ二人が揃えば大して苦戦する相手ではなかった。
現に、その時は一も総司も、傷ひとつ負いやしなかった。
しかし、問題はその後だ。
1人の、まだ幼さが残る娘に、羅刹の存在を見られてしまったのだ。
羅刹に襲われかけたからと言って、外部に知られてはならない羅刹を知ってしまった娘に、副長の土方は眉間に皺を寄せて困り果てた。
最終的には、新選組に身を置かせるということで話は落ち着き、数日が経って現在に至る。
今となってはその娘――雪村千鶴も、人付き合いの良い新八や平助、佐之たちとよく話し、笑う姿を度々見かけるようになった。
仕方がなかったこととはいえ、狭い屯所のさらに狭い部屋へと閉じ込められ、動き回ることを禁じられた上に、男装までしなければならないという心の負担は大きかったことだろう。
それ故、彼女が少しでもここに馴染めたことに、一も少なからず安堵していた。