薄桜鬼

□心許せるヒト【斎藤一】
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――私、雪村千鶴が新選組に身柄を預かっていただくようになってから、早くも二度目の冬がやってきた。

八木邸の庭にうっすらとした粉雪がつもり、特にやることもなかった千鶴は庭の雪を箒で避け、雪なき道をつくっていた。

いつもと変わらぬ日だと感じていたのに、異例の日となってしまったのは、前記の作業を始めてから僅か数分後のことだ。


千鶴ちゃん――。


そう呼ばれて振り向いた先には、いつもと変わらぬニコニコした笑みを浮かべている沖田と、感情の読めない無表情の斎藤の姿があった。


何かと思って尋ねると、三人で島原に行かないか、という話だった。

正直言って、千鶴はまだ巡察の時や、土方に許可をもらった時以外勝手に外出してはいけない身だ。

迷惑をかけるし、…なによりも逃げ出そうとしたと見なされ、今度こそ殺されてしまうかもしれない。

彼らの、私を信用してくれている気持ちを裏切りたくなんてない。


……と、誘いを断ろうとしたとき、




「大丈夫だよ。
土方さんの許可はとってあるから」




と、さっきまでの不安をすべて崩すかのように、沖田が言った。

そう言った沖田の隣では、少し驚いた顔で沖田を見る斎藤が見えた。

その様子だと、許可をとっていたことを斎藤は知らなかったようだ。


許可が出ているなら、断る理由などない。

しかし、千鶴はどこか腑に落ちない気持ちを残しながらも、頷いて、すぐに支度に取りかかったのだった――。




――…辺りがすっかり紅色に染まり始めた頃、提灯の明かりが点々と見える島原の通りを、沖田、斎藤が並び、そのすぐ後ろに千鶴がついていくかたちで歩いていた。

千鶴たちの左右を、綺麗な着物と装飾で着飾った芸姑さんたちが笑って通りすぎていく。


まだ空が藍色に染まっていない夕方なのに、すでに島原にはたくさんの男性客で賑わっていた。

中には、すでに酔っぱらい、大きな声で騒ぎだす輩までもがいる。


そんな人たちには目もくれず、沖田と斎藤は、同じような店が並ぶ大通りをずんずん進んでいった。

そして、目的の場所があったのか、不意に沖田の足が、一件の店の前で止まった。


そこも、特に他の店と何ら変わっているものなどなかったが、強いて言うならば、少し古くささを感じる、老舗のような店だった。

それでも、なかなか繁盛しているのか、出入りする客の数はそれなりにあった。




「ここだよ。
さ、入ろうか」




顔に薄く笑みを浮かべたまま、千鶴たちを中へと促し、三人は紺色の暖簾をくぐった。
 
 
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