薄桜鬼

□心許せるヒトA【斎藤一】
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夜が更け、しんと静まりかえった新選組屯所の門が、そろそろと開く。

人がぎりぎり通れる隙間をあけ、こっそりと1人の少年が、辺りを警戒しながら屯所内へと足を踏み入れた。


明かりなどとうにどこも消えており、人の姿などこれっぽっちも見えやしない。

しかし、この新選組にお世話になってから、少しずつ鍛えられた気配察知力のおかげで、屯所の様子を感じとることはできた。




「……大丈夫です。
誰もいないみたいですよ」




囁くような小さな声で少年――いや、少女はまだ門の向こう側にいる者へ声をかける。




「別にこんなコソコソする必要ないじゃない。
何しようが『誰かさん』にはとっくにばれてると思うし。
…君もそう思うでしょ?
千鶴ちゃん」




同じく呟くような小さな声で独り言のように問いてきた男性――沖田は、よいしょと背中に乗せている斎藤をおぶりなおした。


途中までは斎藤の腕を、沖田は己の首へと回して、支えながら歩いてきたのだが、めんどうだなぁと言った沖田は、それから自分の背に斎藤を乗せて帰ってきたのだった。




「それでも…もしかしたらってことがあるかもしれないじゃないですか。
それに、こんな斎藤さんを土方さんに見られたら、ますます叱られてしまいますよ」




すーすーとぐっすり夢の世界へ落ちてしまっている斎藤は、全く起きる気配がない。

しかし明日――いや今日の朝にできうる限り支障をきたさない為に、石田散薬を飲ませ(飲ませても効き目なんてないと沖田には何度も忠告されたが)、早く床に着かせてあげたい気持ちがあった。




「でもさぁ、一君がこんなになるまで無理したのも悪いと思わない?」




「沖田さんが勝負を仕掛けたことも悪いです。
…これからどうするんですか?」




きっぱりと言い放つと、沖田は苦笑を漏らした。

それと同時に深々とため息をつく。




「…じゃあ、千鶴ちゃんは、一君を部屋まで運んでいってくれるかな?
すぐそこだし、千鶴ちゃんでも大丈夫でしょ?」




予想外の返答に戸惑いながらも、はいと返事をする。

すると沖田はすぐに背中の斎藤を千鶴に託した。

沖田に比べ、背も力も小さい千鶴は、少しふらつきながらもなんとか体勢を整える。




「沖田さんは…?」




背を向けたままの沖田に千鶴が問いかけると、沖田は顔だけをこちらに向け、軽く微笑む。




「僕が土方さんのところに行ってくるから、千鶴ちゃんは一君の看病ね」




千鶴に反論の余地を与えることなく、沖田はさっさと土方の部屋のほうへと向かっていってしまった。


勝手に決められてしまった自分の役割に戸惑ったものの、斎藤の為にもとりあえず斎藤の部屋へと足を向かわせた。
 
 
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