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□1.俺たちの行方【薄桜鬼】
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――六畳一間の狭い部屋に、少し肌寒さを感じさせる弱々しいそよ風が一陣通り抜ける。
外はすっかり漆黒へと染まり、襖の小さな隙間からは見事なほど輝いている黄金の十六夜月が見えた。
秋らしい、少し冷たい風が時々部屋へと忍び込み、それが頬をかすめるたびに土方は小さなため息をこぼした。
書類がかなり積まれた机に肘を乗せ、頬杖をつく土方は、何かに手を付けるわけでもなく、ただ隙間から見える月をじっと見つめている。
いつもなら黙々と己の仕事をこなしているはずなのだが、何故かやる気が全く出てこない。
気持ちを無理矢理奮い立たせ、筆を持って机に向き合ってみるものの、少ししたら筆が自然と止まってしまい、そして何度目か分からないため息が漏れるのだ。
自分の机にむかい、目の前にある文に目を通しているはずなのに、頭に浮かんでくるのは、今危うくなっている場に立つ新選組のこれからのことだ。
もう今までのような、のんびりした日々はそうそう訪れないかもしれない。
そう思わざるを得ないほど、今の新選組は雲行きが怪しくなっていた。
だったら、尚更ウダウダと考えてる暇は無いというのに、なかなか思考を切り替えられない己に苛立ちを覚え、もう何度目…いや、何十回目になるか分からないため息をついた。
「…そうやってため息ばっかりついてると、年齢よりも更に老けて見えちゃいますよ?」
不意に、どこか癪に触るような口調の声が部屋の入口から耳に入ってきた。
いつの間にか襖が半分開けられ、そこに茶髪と翡翠の瞳をもつ長身の男が、いつもの意地の悪い笑みを浮かべて立っていた。
労咳――またの名を不治の病とも呼ばれる病気と、闘病を続ける彼は、見慣れた白い寝間着の上に、赤茶色の上着を羽織っていた。
「…総司。
てめぇ、あれほど大人しく寝てろって言っただろうが。
病人が勝手に出歩いてんじゃねぇよ」
何かと苛ついていた土方は、いつもよりも少し厳しい目つきで総司を睨み付けた。
しかし、そんなことにも慣れているのか、総司は全く気にしている様子もなく、呆れたように深いため息をついた。
「言いつけどおり、さっきまでずっと寝ていましたよ。
けど、寝てばっかりも暇だし、たまには体を動かさないと病気が治った時に、鈍って足手まといになったりしたら困るじゃないですか」
「だからってこんな夜に出歩くこたぁねぇだろうが」
「昼間に歩いていたらみんなに止められて面倒ですよ」
止められるのが面倒なら、何故ここに来るのか全く解せなかった。
見つからないよう出歩くならまだしも、先ほどの様子からして明らかに土方と話しをしに来たようにしか思えない。
こういうことは長年総司と共にいて時々あった。
それらのことを踏まえると、こういうときはたいてい他の奴らには話せないことや、知られたくないことが多かった。
恐らく今回もそうではないだろうかと、土方は内心予測していた。