おおぞらをとぶ


□異世界からの拾い物
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敵船との激しい戦闘中にそれは起こった。
急激な天候の悪化。
雷鳴が轟き、暴風雨の吹き荒れる様はまるでハリケーンの中に突っ込んだようだった。
そんな異常な気象もここグランドラインでは珍しくはないが、そこに現れたモノは見たことがなかった。

陽炎のように揺らめいた空気が歪み、生き物さながらに蠢いた。
それは次第に広がりながら口を開けた。

(危険だ!!)

頭で考えるよ先に身体が感じ取っていた。
アレに近付いてはいけないと。

次の瞬間、その口は笑ったように見えた。
そして近くのものを喰らい始めたのだ。

強風に煽られて船べりから飛ばされた敵船のクルーが最初の犠牲者だった。
積荷や人間が吸い込まれるように喰われていく。
もう戦闘どころではない。
慌てふためく敵船のクルー達。
海に飛び込むものもいた。
俺は部下に速やかに本船への撤退と待機を命じた。

海に逃げたものを喰らいに巨大な海王類が浮上してきたが、そいつは哀れにも口の餌食となった。

目の前の惨劇があまりに信じられない光景で、ただ見ているという状態だ。

口はどんどん広がる。
モビーのマストが悲鳴を上げた。
帆をたたむ間はない。
ナイフを投げつけ帆を切り裂いた。
その直後、わずかに近かった敵の巨大な船を口は丸ごと平らげていた。

それに満足したかのように、近くに浮く木片を吸い込みながら口は縮みつつあった。

と、急にモビー・ディックが傾いた。
海上の異変に驚いた海王類が近くを跳ねたのだ。
バランスを崩した部下が船から落ち、口の餌食になろうとしたのが見えた時、俺は不死鳥に姿を変え飛び立っていた。

口から見える部下の両手を掴み、必死で引っ張った。
そのまま後ろも見ないで船まで飛んだ。

部下を甲板に下ろし、人間の姿に戻った時にはさっきまでの惨劇が嘘のように、静かな海に戻っていた。


「おい、マルコ・・・」
「どうした?」
名を呼ばれて振り向く。

「その女・・・誰だ?」

言われて見下ろせば、甲板には見たこともない女が転がっていた。

俺が部下の両手だと思って引っ張ったのは・・・部下と【もう一人】二人分の手だったらしい。
敵船にはこんな女はいなかった。

(・・・あの口から出てきたってことかよい?!)

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