うみをこえて
□贈り物
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「オヤジ、俺だよい。」
大きな扉をノックすれば、直ぐに声がかえってきた。
「マルコかァ、入れ。」
部屋の主は相変わらず、酒を煽っている。
何の用かと聞く前に、体は大丈夫なのか問いたくなる。
言いたい事はお見通しなのか、今日は大分いいと先に言われた。
「で、オヤジ。何の用だい?」
「ああ…こいつをお前に渡そうと思ってなァ…」
大きな手で、椅子のわきから小さな古びた木箱を取り出した。
目の前に出され受けとる。
「開けてみろ。」
俺の片手に乗るほどの小さな木箱は、大きさの割には重かった。
年期が入りすっかり黒ずんでしまった外見に反して、開けてみれば朱色の絹が張られた美しい内面だった。更に同じ色の布に包まれた物を広げてみた。
「オヤジ、これは…?」
それは、目映いばかりのダイアモンドを散りばめたアクセサリー。
「俺は…財宝には興味なかったんだがなァ…」
オヤジは静かな声で語り始めた。
「そいつァ何処ぞの国の王妃が嫁ぐ時身に付けていたと言われていたもんだ。その娘も、またその娘もと受け継がれ、いつの間にか市場に出回ったらしいがな。」
黙って聞く俺にオヤジは話続けた。
「いつかいつかと思ううちに俺は貰い損なっちまったが…お前にはくれてやる相手がいるだろう?」
そう言ってニヤリと口角を上げる。
改めて中をみると、首飾り、指輪、ティアラと一揃いのそれは、確かにアンティークとしても値打ちがあるであろう。
「形は古いが石は本物だ。あいつは小せぇから、作り直してやるといい。」
あいつが望むなら、それに見合うドレスも作ってやれと言われた。
「オヤジ、こんな大事にしてきた物をいいのかよい?」
一呼吸おいて返ってきた言葉を聞いて、胸が熱くなった。
「俺が欲しかったモノは、お前らにもらったからなァ!」
豪快に笑う彼を見て【それ】を貰ったのは、俺たちの方だと思った。
(ところで、マルコ。俺は生きているうちに孫の顔は拝めそうか?)
(……善処するよぃ)