HUNTER×HUNTER

□目線の先
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Side.I


穏やかな午後、テラスでお茶と読書を楽しんでいたナナシは、先程まで食べていたマカロンを口から離して唐突にぽつりと呟いた。


「指輪が欲しい…」


いきなりナナシが空を見上げながら呟いたその一言に、読書を中断した。
かなり気になる場面でやむなく中断された本は、もう読む気もおきず中断ではなく中止してナナシの話に耳を傾ける。


「指輪?指輪くらい、買ってあげようか?」


自分なり出した結論は、どうやら彼女のお気に召すようじゃなかったみたいでナナシは、首を横に振るとそうじゃないと言ってきた。


「どういうこと?」


指輪が欲しいと言われて、じゃあプレゼントすると言えば答えはNO。
ならばと理由を聞いてみれば、ナナシは空を指差して…。


「あれが欲しい」


ナナシが指差したのは、太陽だった。生憎、俺は太陽に目なんて向けず太陽を指差す指を見ていた。
彼女の手は、恐ろしいと思うほど美しく縫合されたツギハギに塗れていた。


「太陽は、輪じゃないよ?」
「…」


彼女の指差した太陽は、今日も眩いばかりに円く明るい陽光を放っている。
太陽は、むしろ輪ではないと俺がそう言うと、ナナシは困ったように目をふせた。


「イルミは、皆既日食ってみたことある?」
「…少しだけなら。」


質問は、無視され挙げ句逆に質問をされた。
問われた意味を、十二分に理解出来ないままナナシの脈絡の無さそうな話に俺は、耳を貸した。俺の視線は、手の中で中途半端に読まれた本に注がれていた。
多分、ナナシはこっちを見ているだろうと感じた。…それか、空のどちらかを見ている。或いは、両方を交互に見ているのかもしれない。
彼女の方に、視線をおくっていない俺は仮定でしか彼女の視線を追うことが出来なかった。










しばらくの間、ナナシは黙っていた。俺の意識は、先程読むのを中止した本に向いていてナナシの話は意識の外に向こうとした時に、彼女は冒頭の時のようにぽつりと呟いた。

「私、いつも見逃すの…」


何をと聞こうとして、日食のことだと思った。意識の外にやる筈だった話に戻され、少しばかり苛立っ。
またもや、本を閉じた。
こうなってしまえば、最後まで付き合おうと完全に本を開けるのを止めた。


「小さい頃から何度かチャンスがあったのに、寝てたり忙しかったりで見れてない…」
「なんで今更そんな話するの?」


日食なんて、そうそう起きるもんじゃないが別に俺達の若さで嘆くことでもない。俺達が死ぬまであと何回、日食が起こるかなんて想像も出来ないが一回くらいならして起こるだろう。それだけの年月が、まだ俺達には残されている。
そんな中、一人悲観的なナナシの態度に、俺は本当に意味がわからなくなった…。


「イルミ…」
「何?」
「皆既日食を見てどうだった?」
「…別に、ちょっとの間暗かっただけ」


少しだけ元気が出たらしいナナシは、また俺の答えを聞いて首を振った。しかし、他に何か思い出そうにも、別に興味を引かれることなんて無かった。


「なんだ、イルミももしかして見たこと無いんだ」
「?」
「太陽の輪」


『太陽の輪』
確か、日食が起きるときに指輪のように見える現象のことだ。


「もしかして、それが欲しいの?」
「うん」


当たり前だが、太陽の輪は現象であって物質ではない。それに、星が買える程の財産を持つ俺でもハイそうですかと、皆既日食を起こせるわけにもいかない。
太陽の輪なんて、時たまおこる皆既日食の中で本の数分の世界だ。それこそ、起きないという可能性だってないわけじゃない。
そもそも人は太陽に着陸は疎か、近づくことすら出来ないのに…。


「早く消える指輪のどこがいいワケ?」
「早く消えるトコロ」
「そんなの指輪の意味ないじゃん」


全くもってナナシの話は要領を得ない。
指輪は、永く人を縛るためにあるのだ。それを早く消えるなんて変なオプションがついた指輪なんて一体何がしたいのだ。


「意味なんて無くても指輪が欲しいの!」
「無理。もし、本当に太陽の輪という指輪が存在したとしても俺達には手に入らない」
「…っ!!どうして!?」
「だって…」


心底呆れた口調で、彼女を諭せばまるで母親のようにヒステリックを起こした。
しかし、彼女のヒステリックさえ太陽は気にせず悠々と青空をたゆたう。




(太陽の輪は、太陽が月を縛るために用意する鎖…。それを奪ったら、太陽が可哀相でしょ?)



end.

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後書き

楽しかったケド、意味不明(笑)

↓↓反省[月食×イルミ]
















「太陽の輪なんて本当にあるの?」
「あると思う…」
「大丈夫?中学生のころに教科書チラ見しただけでしょ?」
「せ、説明文はうろ覚えだけど太陽の輪はホントだよ!」
「……どうだか」
「じゃ、じゃあ私もう行くから…」


月食が、ログアウトしました。


「あ、逃げ出した。…まぁ、俺には関係無いからいいか」


イルミが、ログアウトしました。



201205
再Up&改稿



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