HUNTER×HUNTER

□人形
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叶えられない恋をしました。



彼の腕に抱かれてもなお、私は彼の恋人ではなく操り人形ということでしかない。その事実を知ったとき、とても心が痛かったのです。
感情すら無い人形になったというのに…。



勤めていたお屋敷に、こんな地下があるとは思ってもみなかった。今では見慣れた一室になってしまったこの牢屋は、暗いのと寒いのが問題くらいで皆が想像する牢とは違い過ごしやすい場所だった。
私はここで、完全な人形になるまで監禁されるらしい。時々様子を見に来るイルミ様がおっしゃっていた。


牢という生活スペースを十時間かけて掃除していると、黒髪を揺らすイルミ様が階段を降りてきていた。


「まだ感情があるなんてほざくの?」
「はい」
「しぶといね。そんなに生きていたいの?」


冷たい表情しか浮かべないイルミ様を見て、わずかに胸が痛む。前回の時より痛みが感じられないのは、もうすぐで私が人形に成ることを意味しているのだろうか…。
私はのろのろとした動きで、掃除道具を片付ける。昔は当たり前に出来ていたこと全てが今は重労働になっていた。この牢だって、半分の時間で掃除出来ていた。


「言葉を話すことだけしか出来ない人形なんか、俺は必要としてないんだ」
「…」


イルミ様は、口を閉じた私を見てため息をついた。私は、置かれた唯一の家具である椅子に腰掛け彼を出来るだけ見つめていた。



階段の方からもう一人降りてくる音が聞こえた。イルミ様しか見ていない私には容姿が分からないが、視界の端で見た限りでは、ピエロだ。


「イルミ、約束の時間だ☆」
「ヒソカ…もういいよ。これは失敗作だし、好きなように使いなよ」


彼は吐き捨てるようにこの場を去って行った。私の目からは涙が溢れたけれど、頬を濡らした感覚さえも私は蝕まれていたらしく最後の涙の感触は分からぬまま目を閉じた。


私は今日、イルミ様の元を離れこのピエロに飼われることになるのだと、ピエロは言った。ピエロの戯れ言など聞く耳を持ちたくないが、離れていくイルミ様の気配に事実なのだと言われた気がした。


私はピエロに抱えられ、屋敷を去った。私の目は、屋敷を出る時に機能しなくなり自分がどこに連れて行かれるのか視覚出来なくなったが、問題はない。私の心は既に消え去り、完全な人形と化したから。



人形
-絶対に叶わない恋をしました。
なぜなら、恋した次の瞬間に私は彼の人形となり失敗作となったのですから…
-


end

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後書き

イルミ×人形(元メイド)でした。
悲恋は似合わないけど、書いていったらこうなった。



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