HUNTER×HUNTER

□愛を叫ぶ
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―…好きだから伝えたいと思う。




「好き!」
「…十三回目」
「何が?」
「ナナシが、今日言った好きの数」


ベッドに寝転ぶイルミを抱きしめながら、夜の続きとばかりに愛を囁く。対するイルミは、鬱陶しいと言いたげな顔して、私を身体から引きはがそうとしていた。
悲しいことに、私達の想いは重なり合わない。私だけの一方通行。でも、離してあげないし好きを言い続けてやる。


「数なんか数えて楽しい?」
「楽しくないよ。ナナシに異常だってことを教えるために、数えてる」
「愛だね!」
「違う」


イルミは、私の腕を振り払うとベッドから出てしまった。慌てて追い掛けようとすれば、仕事だからと釘を刺され抱き着くことを拒否される。


「言えば言うほど、言葉っていうのは軽くなるんだよ」
「?」
「本当に俺が好きなら、あんまり言わないでってこと」


イルミは、仕度しながら私を睨んだ。
どうしてそこまで怒るのか私には理解出来なくて、イルミが何を言いたいのか考えてもわからない。


「わかった?」
「わかんない」
「はぁ…。仕事行ってくる」
「いってらっしゃい!イルミ、好きだよ!」


ため息を吐いて、諦めにも似た表情を浮かべたイルミは、仕事に出かけて行った。
一人ぼっちで暇な私は、イルミが置いていったライターでアロマキャンドルを点ける。フワリと香るアロマと優しい灯が、部屋に広がった。




しばらくベッドで安らいでいた私は、ベッドの近くにある棚から隠していたインカムを装着した。
ザーと砂を荒く擦ったような音が何回か聞こえたのち、甲高い電子音が鳴り通信が完了したと知らせた。


「戦況は?」
『こっちがいくらか有利だけど、油断は出来ないね』
「気をつけて。そっちにイルミが向かったよ」
『本当!?最悪だ…。一気に戦況をひっくり返されるよ』


通信相手は、最初に聞いた揚々とした声を頼りないモノに変えて落胆する。
相手と会話しながら、先程まで纏っていたシーツを脱ぎ捨てた。ベッドを横にずらし、下にあった秘密の扉を開いて特注された戦闘スーツを取り出す。
その間に大まかな流れを伝えられて、発言を私に譲られる。


「イルミと互角の能力者っていないの?」
『無理だね。いたとしても、暗殺されてお終いさ』


秘密の扉からチェス盤を持ち出し、ベッドに広げて駒を並べる。
戦況は、特殊技術の力で立体映像として脳に直接届いた。後は戦況の通りに駒を並べて、自分なりの攻略方法を一通り練って相手に送り返した。


『@とBを挟みこむのは、良いけどイルミをどうする?』
「私が行くから」
『………君が!?』
「イルミと互角に戦えるのは、私しかいないじゃない」


私の作戦に面食らった相手は、私の一言で黙り込んだ。
こうして作戦会議をしている間にも、愛の名残のようにアロマの香りが私を満たす。少しだけ感じる罪悪には目を瞑り、大好きな人と戦える状況に胸を躍らせる。


『そうだけど……良いの?裏切り行為だよ?嫌われるかも…』
「貴方が気にすることは、チームを最小被害で勝たせる事以外は無い筈よ」
『…でも!』
「10分で準備するから、移動用の戦闘機の手配を宜しくね」
『了解…。君の特別を送らせてもらうよ』
「ありがとう」


通信を完全に切り終えて、スーツに身を包む。邪魔な髪は真っ黒な髪留めで一つ結って、磨きあげたナイフと調整済みの二丁拳銃を腰にセットする。
ブーツには隠し弾と小さめのナイフを仕込んで、指にはイルミから貰った唯一の指輪をはめた。
左手の薬指に光るシルバーリングに笑いながら、手甲とサングラスを装着してイルミとの対戦用に用意しておいたケースを手に持ちイルミと同じように部屋を出た。



点けっぱなしのアロマキャンドルは、鍵が掛かると同時に燃え尽きた。








愛用の単車に跨がり、エンジンを吹かす。
静かなエンジン音に、鼻歌を添えながら目的地へと発進させた。






「凄い状況だね」
『そこら辺の戦闘は、大体終わったよ。ナナシは、Eエリアにいるイルミをお願い』
「了解」


A・Bエリアを通り過ぎると、多くの爆弾でボロボロになった道が行く手塞いだ。それを、凄まじいスピードで直進し愛しいイルミのいるエリアへと向かった。





「随分、やられたね」
「君が最後の一人?」
「さぁ?」


単車でエリアの中心部まで入り込めば、惨劇の中で一人佇む青年がこちらを向いた。
その人は、間違いなくイルミで私は無理に飛ばしてきた単車を投げ捨てケースを持った。


「君が最終兵器と呼ばれる能力者?」
「さぁ?」
「どうでもいいけど、早く終わらせたいんだ。来なよ?」


ケースから取り出したのは、私専用の武器。
扱いが難しいのと、反動の力が強すぎて滅多な事では使えない私の武器は東洋に伝わる刀と似た形をした剣だった。


「さよならイルミ」


相棒を持って私は、愛しいイルミを殺すべく地面を蹴った。



愛を叫ぶ
-最期の最期まで愛してると言えなかった-


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後書き

敵同士だけどイルミを愛してしまった少女の話。
バッドエンドです。








くだらないおまけなので、恋のままが良い人は見ないで下さい。


「またバッド…」
「どうしたの?」


ゲームに集中していたイルミは、無表情のまま持っていたゲーム機をベッドに投げた。拾って画面を見れば、バッドエンド用に作られたエンディングが流れている。


「グッドが見たいのに、ルートが出ない…」
「主人公キャラ、強くし過ぎてるよ?」
「それ、関係あるの?」
「重要項目だよ!」


恋愛シュミレーションゲームに戦闘要素を組み込んだこのゲームは、バッドエンドだと相手が死ぬか自分が死ぬかの二択しか無い。変わりにグッドエンドやトゥルーエンドは感動するらしく、ミルキも大絶賛のゲームだ。


アドバイスを受けたイルミは、早速ゲームに取り掛かった。
私も、ゲームの続きをするためにヘッドフォンを装着する。




これが、私の何気ないイルミとの日常。



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