短編

□密着してたい季節なんです
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密着してたい季節なんです

12月、冬。
寒風が吹く外を、縁寿と天草は二人、歩いている。
そして縁寿の手には、紙が握られている。
「それにしても災難ですよねェ・・・
こんな寒い時期に暖房も炬燵も故障だなんて」
「本当ね。
誰かさんが無理矢理、私の隣に入り込むから壊れたのよね」
縁寿が握っている紙は、電気用品店のレシートだったのだ。
天草が話題を逸らす様に縁寿に話掛けると、縁寿は刺々しく反論を述べた。
「そうだお嬢、今夜の夕飯は何を食べますか?」
「そうねぇ、炬燵を壊した人が夕飯を作らない様に出前とか取ろうかしらね」
玄関の戸を開けると、室内にも関わらず身体が震える程に寒い。
縁寿が天草を見ると、手を擦り合わせて震えていた。
「手袋、は?」
「あ――、生憎ですが持ってなくてですねェ」
はぁ、と手に息を吹き掛ける天草。
はぁ、と溜め息を吐く縁寿。
「馬鹿じゃないの?
玄関にずっと居ても意味ないわよ。
早く上がりましょう」
「なんかお嬢が逞しく見えますねェ」
「一言余計よ」
部屋に入っても、やはり暖房、炬燵が無いと寒い。
縁寿が暖まりもしない炬燵に足を入れていると、天草が横に無理矢理入り込んだ。
「あ、ちょっと天草?!
更に壊すつもり!?」
「良いじゃないですか、どうせ買い替えですし」
反論できない縁寿。
嬉しそうに縁寿に身体を密着させる天草。
「・・・・・・・・離れなさい」
「暖かくて良いじゃあないですか」
油断した縁寿に天草がキスを落とす。
「・・・きゃっ!?」
驚き、頬を赤く染める縁寿。
「油断、してました?」
「――――――――天草の変態」
ヒャッハ、と天草の笑い声が小さく聴こえた。
「炬燵、買い替えなくて良いかもですね」
「馬鹿」
密着するのもたまには良いかな、なんて二人は思っていた。


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