愛を惜しみなく


Loving You
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心臓が、口から飛び出しそうな勢いで、どきどき、が、止まらない―――。

半平太さんの名前は、いちばん大切な人の名前は、わたしを包み込んでくれる呪文、だから。

『半平太さん・・・
 好き、好き、大好き』

溜息(ためいき)を吐(つ)く時は、心の奥で、その名前を、呼んでしまう・・・・。
いまも、確かにそうだった、けど。

返事を待たずに、お部屋に入ってきた半平太さんは、心配そうに、わたしを見つめるから、

「・・・声、出ちゃってたんですね」

お休みになる邪魔をしてしまったことが申し訳なくって、だんだん声が小さくなる。

「ん?」

わたしを安心させてくれるようにやわらかに先を促すから、わたしにとっての呪文の意味を、その名前の主に伝えようとしたのに。

「おいで――」

広げられた腕に近づくことを躊躇(ためら)ったわたしは、半平太さんに、そっと抱き上げられる。

「・・きゃ・っ・・」

思わずしがみつきそうになった自分に気付いて。
離れたくないって思ったいちばん大好きな人が、こんなにも傍にいることを確かめたくて、わたしは、その首に腕を回す。

温もりの確かさに安心して、息を継げは、恥ずかしさが増してしまって。

「・・自分でも、変だと、思うのに。隣のお部屋には半平太さんがいるって、明日になったら、また一日の始まりに半平太さんの顔を見られるって、頭では判ってる・・・」

名前を呼ばずにはいられない理由を、説明しようとするわたしが続けた言葉、

『襖で、隔(へだ)てられただけ、なのに・・・』

半平太さんは、同時に同じ言葉を告げるから―――。
想いが伝わっていたことを知らされて。
どきん。

大きく跳ねた鼓動が、更に速度を増して、いく。

誰よりやさしく、そばにいてくれる人から、わたしは瞳を逸らせないまま。
気が付けば、絡めた指に吐息がかかり。

―――口付けが、降りてきた。

"Loving You"了
2011.04.28.up at web拍手ss
2011.05.27.up at 愛を惜しみなく


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