解読不能

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「どうしたんだー?」

「うわっ!?」



ドアップの広夢の顔に驚いて椅子から転げ落ちた。痛ぇ……。

打ち付けた腰を擦りながら立ち上がり、椅子に座る。周りの苦笑が余計に恥ずかしい。



「裕哉がいないから寂しいのか〜?」

「んなわけねーだろ。ちょっと考え事してただけだ」



裕哉こと衛藤さんは今、石田先生こと倉林さんから呼び出されている。



「考え事ねぇ…………もしや恋?」



手近にあった教科書でふっ叩く。現代文の教科書は全教科中、一番厚みがあったりする。



「いってぇな、冗談だって。……で、何考えてんの?」

「………健全な18才男子の泣き顔を見たときの反応について」



昨日の梶さんとの件のことだ。

広夢には隠す必要は無いだろう。コイツは意外に気遣いのできる奴だし。



「ん〜……案外気にしてないんじゃねぇ? 誰だって泣くじゃん」

「そりゃそうだけど」



実は今日、顔合わせてないんだよな。気付いたら梶さんはいなくて、テーブルに置き手紙があってさ。

用事があるから先に出る。帰りが遅くなりそうだから先に寝とけ、って。

走り書きだったからめっちゃ急いでたんだろうなー。大変だな、麻取って。



「フツーに接すればいいと思うぜ、俺は。その方がお前も向こうも楽だって」

「そっか……」



前髪を掻き上げながら笑う広夢。



「ところで、蒼衣をここまで悩ませた奴って誰なわけ?」

「あ、えっと………」



教えられるわけがない。どう誤魔化そうか………。



「ふ、服屋のお兄さんだよ。ちょっと前に知り合ってさ」

「へぇー………あ、裕哉来たぜ!」



広夢の言葉に振り返ると、肩を落とした衛藤さんがこっちへ来た。

ご愁傷様です………。



「お疲れ、裕哉」

「ありがとう、広夢くん………」



お疲れ気味の衛藤さんは席に着くとそのまま机に倒れ込んでしまった。

倉林さん、恐るべし。




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