解読不能

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チャイムが鳴ると同時に梶さんは俺を突き飛ばした。



「うわっ!」

「わ、悪い! 大丈夫か?」



そう言って梶さんは俺に手を差し出した。その手を借りて立ち上がると目と目が合った。

が、梶さんが歩き出したことで視線は外れた。



「階段なんだから……気を付けろ」

「ごめん。ちょっと……急ぎすぎた」



キスのことについては触れないらしい。というかまだ頭が混乱してて、とてもじゃないけど言えなかった。

でも、さ。



俺、何で拒まなかったんだ……?















「……殺してやる」

「今日はまた随分機嫌がよろしくないようですね……」



目の前で何杯めか分からないほど酒を煽る男に、バーテンダーは困り果てた。

普通の客なら一喝できるものの、この男は主だ。つまり立場が上。一喝などできるはずもない。



「もう一杯くれ」

「……仰せのままに」



今日はとことん男に付き合ってやろう、とバーテンダーは店を閉めた。



「おい」

「何でしょう?」

「今、俺には欲しいものがある。簡単には手に入らないが、どうしても欲しいんだ。
お前ならどうする?」



バーテンダーは割った氷を入れたグラスを差し出しながら答える。



「欲しいものならば絶対に手に入れますね。どんな手を使ってでも」

「だろうな。お前はそういう奴だ」



男は酒を飲み干して氷を口に含み、ガリッと噛み砕いた。小さくなった氷は途端に溶けて消えていく。



「ところで例の件は進んでるか?」

「えぇ。あと二、三日もすれば動き出すでしょう」

「神崎蒼衣に一ミリでも傷をつけたら容赦はしないと伝えておけ」



そう言って男は席を立ち、裏口へ向かう。



「お帰りですか?」

「あぁ。また後日来る」



深々と頭を下げるバーテンダーを背に、男は大量に酒を飲んだにも関わらず、しっかりとした足取りで店から出ていった。



「早く、俺だけのものにしたいよ……蒼衣」




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