短編

□26時のラブコール
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「ごめん、起こしたよね……?」



いつもの元気な名前からは想像もつかないくらい弱気な声に、俺は戸惑いながら否定した。



「どうした? 何かあったのか?」

「ん………別に何もないよ」



歯切れの悪い物言いにひっかかる。泣きそうな、でも嬉しそうな声に疑問を抱かないわけがない。



「何かあったから電話したんだろう。どうした?」

「………声、聞きたくて」



小さく呟いた内容に驚く。どちらかと言うと淡白な名前から聞ける言葉じゃない。

そして驚いたと同時に罪悪感を感じる。こんな時に傍にいてやれないなんて。

明日(もう日付は変わったが)の朝イチに提出の書類が無ければすっ飛んでいけるのに、と唇を噛み締めた。



「悪い………」



そう言うと、仕方無いよと返された。聞き分けがいいのも困りものだと、名前に出会ってから思うようになった。

少しくらい我が儘を言ってくれてもいいのに。いや、俺を気遣ってのことだろうが。



「明日の夜、空いてるか?」



普段なら気になる秒針の刻む音よりも、今は名前の声を耳が欲している。それも嬉しそうな声を。

うん、という声に口元が緩んだ。誰もいなくて良かったと安堵する。こんな顔を見られたら絶対に比企にからかわれる。



「仕事が終わったら迎えに行く。ちゃんと待ってろよ?」

「………うん!」



明るくなった名前の声に安心しながら、26時を知らせる音色を聞いた。






風雅様よりお借りしました




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