短編

□悴む両手で抱き締めて
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「さむっ」



二月の或る夜。室内なのに風が吹いている気がして目が覚めた。

ハルがいない…………あれ? 窓開いてる?

隣で寝ていたはずのハルがいない。そしてベランダへ続く窓が少し開いていた。



「ハル……?」



揺らめくカーテンを片手で払ってベランダに顔を出すと、見慣れた姿。



「起きたのか」

「風が入ってきたからね」



眼鏡無しのハルの瞳は虚ろで、月の光と相まって儚げで美しい。

時々思う。何でこの人はこんなにキレイなんだろうって。

神様は不平等だ。私もこれくらいキレイになりたいのに。



「何ボーッとしてやがる、名前」

「神様は二物を与えてるなぁって」

「寝惚けてんのかお前」



部屋に戻れよ、という言葉を無視して私はハルの隣に立つ。

そしてさりげなくハルに体を預けてみると意外にも抵抗されなかった。



しばらくしてハルはぽつりと呟いた。



「子供体温」

「子供じゃないもんっ!」

「デカイ声出すな」



ぺち、と軽く頬を叩かれる。



「寒い……」

「だから部屋に戻れ」

「ハルが抱き締めてくれたらあったかいのになぁ」

「ふざけんな」

「ふざけてないもん」

「部屋に戻れ」



ぐっと肩を押されてしまい、数歩後ずさった。仕方ない………諦めよう。

ハルから離れて半開きの窓へ向かう。鍵締めてやろうか。……やめとこ。

ベランダから部屋へ移ろうと足を踏み出したその時。



「ひっ!?」

「もう少し色気のある声出せねぇのかよ」



お腹の前で組まれた両手に、背中に感じる体温。明らかに後ろから抱き締められてる。



「どういうつもり?」

「あっためてやってんだよ。寒いんだろ?」

「そうだけど、何か………」



裏がありそうで怖い。だなんて言えないので押し黙る。



「明日は雪降るね」

「晴れるって言ってただろ」

「ハルのせいで雪が降るんだよ」

「……もう戻るぞ。風邪引く」



離れていく腕に名残惜しさを感じながら部屋に戻った。

振り返ると月光の下に雪がちらついていた。






風雅様よりお借りしました




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