解読不能
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あの人は父さんを助けてくれる。父さんに必要な薬を作ってくれる。
病気に苦しむ父さんが俺の前で笑っていられるのも、部下をまとめて仕事に行けるのも、全部あの人のおかげだ。
違法な薬だから普通じゃ手に入らないけど、あの人が作ってくれるから大丈夫。あの薬さえあれば父さんは生きていられる。
なのに。
「どうして……死んじゃった、の……?」
棺に横たわる父さんは冷たくなっていた。ぼたぼた、と零れ落ちた涙が父さんの頬を伝う。
どれだけ泣き続けても瞼が開けられることはなく、10歳の俺は人間の死を知った。
暫くして、棺の前に座り込んだ俺の隣にあの人がやってきた。赤く腫れてしまった瞼に濡れたタオルを当てながら、こう言った。
「お父上が亡くなられた理由を、聞きたいですか?」
「……教えて。俺には知る権利があるよ」
病死だと聞かされていた。信じてなかったけど。
「あなたのお父上に作っていた薬と、それに纏わる研究データが全て盗まれたのです」
「え……」
「部下の中に麻取の捜査官が紛れていたのです。光と名乗っていた構成員を覚えていますか?
極秘の調査を行った結果、彼の正体が麻取の捜査官だと報告がありました。
恐らくは彼が盗み出し、間接的にですがお父上を殺したのでしょう」
それを聞いて俺は復讐したいと思った。父さんの命を奪った男が憎くてこの手で殺したかった。
そう伝えると、あの人は俺の手を汚すわけにはいかないと言って部下を手配すると約束してくれた。
必ず、殺してやる。決意を固めていると、あの人は思い出したように呟いた。
「その者の名は……沖田一輝」
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