LAST EXILE

□第一章(完結)
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【Prologue】
(プロローグ)





大陸暦940年。バルディア大陸最南端に位置するのどかな村ゼクセン。

その村の近くにある森の草むらに、一人の幼い子供が横たわっている。

大陸では見ない美しい紫色の髪を持つその子は、すやすやと幸せそうに寝ていた。

そんな子供のすぐそばには、漆黒の艶やかな毛を持つ大狼がいた。大狼は子供を守るかのように子供の横にいる。

パキッ、と突然音が鳴った。

それは枝を折れる音だった。大狼はその音に瞬時に反応した。

視線の先には暖かそうなブランケットを手にした女性がいた。

豊かな金色の髪を持つ柔和な顔立ちのその女性は、大狼に臆する様子なく微笑みかけた。


「───久しぶりね。ガルム」

大狼―――煉獄の遣いの異名を持つ守護獸に、女性は歩み寄っていく。

『…マリアか』

耳は勿論のこと、心の臓、そのさらに奥に響くような声が放たれた。

言葉を発したのはガルムだった。

人語を話すことができる守護獣は非常に位が高い。数百年も生き、人間よりも多くの知識を持つガルムにとって言葉を発することなど容易いことであった。

獸の王であるガルムに恐れを見せず、女性―――マリアは微笑みを深める。そして、持っていたブランケットを子供の体にそっと掛け、愛しそうに頭を撫でた。

子供は温かいその手に、無意識に頬を寄せる。

ガルムはその様子を、見守るように見つめていた。

子供の頭を撫でながら、マリアは口を開いた。

「この子に付きあってくれて悪かったわね。ありがとう」


微笑みながらマリアがそう言うと、ガルムは言葉を返した。

『召喚獣としての務めだ。気にするな』

すると、マリアはさらに笑みを深める。先ほどの笑みとは種類が違う。何かをからかおうと企む笑みだった。

「それにしても、あなた。そうやってると本当に忠犬にたいね。なんか可愛い」

犬扱いされたことに、ガルムは憮然とした雰囲気を出した。

『煉獄の遣いと呼ばれる俺を犬という人間はお前とこいつだけだ』

彼の言葉には、眼の前のマリアとそばにいる子供対する呆れとも感心ともとれる複雑な思いが滲んでいた。

一人と一匹が言葉を交わしていると、一陣の風が二人の間を吹き抜ける。

刹那。

「───お二人とも、セスが起きてしまいますよ」

ガルムとは正反対の、とても優しい声。

ディースでは珍しい白髪を持つ女性が現れた。

白髪といっても、老人のような髪ではなく、彼女の髪は見事な乳白色の艶を保っており、滑らかである。また、民族的な服を纏っていて、優しそうな顔からは母性が感じられる。そして、神秘的な雰囲気を纏っていた。

突然現れた彼女に、マリアは微笑みながら声を掛ける。

「久しぶり。エイル」

「お久しぶりです、マリア。セスの様子はどうですか?」

「ぐっすり寝てるわ。とても幸せそう」

エイルは寝ている子供―――主でるセス・ペリドットの傍まで近づくと、美しい膝が汚れることなど気にすることなく跪き、慈愛に満ちた瞳でセスを見つめた。

「えぇ。本当に幸せそうに寝ている」

エイルは壊れものを扱うかのように、愛でるようにセスの頬を撫でた。それを見ていたマリアは悲哀の表情を浮かべた。

「……このまま時が止まってくれたら、この子にとって幸せなんでしょうね。」




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