Clone
□clone
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「恭さん」
ある日の朝、哲が襖越しに一人お茶を飲む僕の名を呼んだ。
きっと襖の向こうには行儀よく正座をした彼がいるんだろうと思いつつ、僕は立ち上がると自ら襖を開けてやる…
今日の僕は機嫌が良かった。
「“アレ”が完成しました」
「ふぅん…思ってたより早かったね」
正座をしたまま僕を見上げる哲に顔色一つ変えず言うと僕は哲を置いてボンゴレ内でも全く知られていない“研究室”へと向かう。
表情には出ないものの、内心僕は嬉しくて仕方がなかった。
だって念願の“アレ”が完成したんだから…。
研究室に着くとそこは普段では考えられないくらい静まっていた。
いつもはパソコンのキーボードを叩く音やらなんやらで咬み殺したいくらい煩いけれど…今日だけは特別。
「恭さん、此方です」
いつの間にか僕の後ろにいた哲に言われた通り研究室にあるいくつかの個室の中でも「立ち入り禁止」と書かれた一部屋に僕は足を運ぶとドアノブへと手を掛ける
すると哲が何やら眉を寄せ如何にも困った顔して僕の手を止めた
「恭さん、その…」
「なに?」
「一応完成はしたんですが一つ欠点が…」
「いいよ、直接見てみたい」
言葉を濁らせる哲を無視し僕はドアノブを回すと“アレ”がいるであろう部屋へと入った
すると一瞬分からなかったが部屋の隅で膝を抱えて座っている黒髪の少年を見つけ僕はそれに近付いて行く
…これが僕と哲が話していた“アレ”
黒髪の少年は僕が目の前まで近寄ると恐る恐る顔を上げて僕を見上げた
「ワォ」
黒髪の少年は僕と同じ顔をして…それは弱々しく震えている
これは僕の“クローン”
元々は沢田綱吉が生きていた時に「ヒバリさんが二人いたら…」という話をしていたことから始まった物。
僕はあまり最初は興味がなかったんだけど…クローンが出来るということは自分と戦うことが可能、ということに気付いてそれだけの理由で無理矢理哲に作れと命令した。
そして僕のクローンは実際に完成して…確かに見た目は僕と瓜二つ…
でも僕には一つ気になることがあった
「ねぇ、君…僕ならもっと堂々としたらどうだい?」
「……………」
僕の瓜二つのクローンはずっと膝を抱えたまま怯えるように震えているだけではっきり言って到底僕の性格では考えられないことだ
これが哲が言ってた欠点…か。
「性格が全く僕とは正反対だね」
「すみません…しかしその他の戦闘能力などは全て恭さんと同じです」
「戦闘能力が同じでもこれが快く戦ったりするか…分からないけどね」
僕は僕と似たそれの前にしゃがみ込むとそっと僕と同じ黒髪に触れる
すると驚く程それはビクッと震えて今にも泣き出してしまいそうな顔で僕を見た
…まさか自分のこんな顔を見る日が来るなんてね…
「僕は雲雀恭弥だよ」
「あ…ぅ……ひ、ば…?」
「ヒバリ」
「ひば…り」
少し慣れたのか大人しくなってきたそれの頭を撫でると彼は目を細めて気持ちよさそうに小さく微笑んだ
哲によると言葉はある程度分かるみたいだけど知識はあまりないらしい…
とりあえず僕はそれを研究室から僕の部屋へと移しまだ赤子のような彼を僕が世話することにした。
なんだか自分と似たそれと話すのはとても違和感があるけど自分が言い出したことだし一応責任はある。
それに僕の傍にいれば段々と僕みたいな思考になるだろう、という甘い考えもあった。
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