†short†
□いのちの歌
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歌が聞こえた。
澄んだ歌声。
流れるようなメロディ。
心が洗われるようで、なぜか涙が出た。
寝転んでいた体を起こし、涙を拭った。
唄の主を一目見てやろうと立ち上がる。
俺がいるのは海岸。
岩場の奥。
歌声は俺が背もたれにしていたでかい岩の向こう側から聞こえていた。
俺が歩き出そうとした時だった。
ずっと聞こえていた歌声が少しかすれて、だんだんととぎれとぎれになっていった。
その声が消えていくのにあわせて子猫の鳴き声が聞こえた。
ミーミーと何かを訴えかけるかのように必死な鳴き声だ。
俺が岩の裏に回ると子猫が駆け寄ってきた。
それを抱き上げてその先を見た。
胸を手で押さえ、苦しそうにうずくまっている女の姿。
「おい! どうした!?」
慌てて女に駆け寄った。
「大……丈夫。……いつものこと……だから」
女は苦しそうに顔を歪めてチラリと俺を見た。
「でも、誰か呼んだ方が……」
立ち上がりかけた俺の服の裾を女がつかんだ。
「だめ……! 呼ば……ないで!」
肩で息をしながら女は言う。
俺はその言葉に切羽詰まったものを感じ、女のそばにしゃがみ込んだ。