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□潮風の吹く頃
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とめどない潮騒の中、少女は浜辺に立っていた。
空一面の茜雲。
海が紅く染まっている。
ゆっくりと日が暮れて、蒼くなっていくその空を、ただ見上げていた。


潮風の吹く頃


「紗香!」

その少女は名を呼ばれて振り返った。
そこには1人の少年がいた。

「こんなとこで何やってるんだ? おじさんとおばさんが探してたぞ?」

不思議そうな少年・誠を尻目に紗香は視線を海に戻した。

「目に焼き付けてたの。もう最後だから。大好きなこの場所を忘れないように……」

そう、紗香は今日両親と共に遠くの町に引っ越す。
もう出発の時が迫っているのだ。
でも、紗香に動く気配はない。

「なぁ、紗香。約束しよう? 僕たちが大人になったらまた会おう。この場所で」

ずっと一緒だった2人にとって離れ離れになることはすごく辛いこと、淋しいことだ。
だけど、子どもの2人には現在を変えることは不可能だ。
ただ、受け入れることしかできない。

潮騒が響く。
絶え間ない波の音に紗香の嗚咽が混ざる。

「……大人……って?」

「じゃあ……! 10年後! 10年後の今日にここで待ち合わせしよう? ……大丈夫。また、必ず会えるから」
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