†song†
□車輪の歌
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車輪の唄
夜明け前、家の前に自転車の停まる音が聞こえる。
錆び付いたブレーキ音。
聞き慣れた音。
そして、もう当分聞く予定のない音。
そう思うといつもは煩わしいこの音も愛しく聞こえる。
「うるさいっ」
通りに面した2階の部屋の窓を開けてあたしは叫ぶ。
「駅まで送るよ」
そう言って跨がった自転車の後ろを指差すのは西田大和(ニシダヤマト)。
あたし、間宮亜芽羽(マミヤアゲハ)の彼氏だ。
あたしは大きな鞄を肩にかけて家を出た。
そして、無言のまま大和の自転車の後ろに横座りした。
大和も何も言わず、自転車を漕ぎ出した。
錆びた自転車はあたしたちを駅まで運んで行く。
いつもならたわいないおしゃべりをしてるあたしたちも、今日だけは無言だ。
あたしはそっと大和の背中に寄り掛かった。
「どしたー?」
いつもの声で問う大和。
でも、あたしたちの考えていることは多分同じ。
“このまま離れたくない”
ギシリと自転車が鈍い音を奏でる。
大和の背中があたしから離れた。
線路沿いの上り坂に入り、大和が立ち漕ぎを始めたのだ。
坂を登りきれば、駅はすぐそこだ。