HPlong

□箒で空を飛べたなら
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──飛行訓練は木曜日に始まります。
グリフィンドールとスリザリンの合同授業です──


張り紙を見た各寮の反応は様々だった。落胆するもの、顔をしかめるもの、憎々し気に舌打ちを打つもの。歓喜する者はごくわずかである。

珍しく一人で掲示の廊下を通ったハルキは、その知らせに心躍らせた。本来仲が悪い二つの寮は、だがしかし、合同授業の数が多いのだ。寮が別れたので始めは寂しくもあったが、そのおかげでちょくちょく顔が見れてハルキは満足である。

たとえマルフォイが嫌みったらしく自慢話をしていても、構わないわけで。

楽しみだなぁ

ハルキは迫る木曜日に思いを馳せるのであった。





ーーーーー





正に作られたように輝く青い空。雲一つ無い晴天とは今日の日を指すのであろう、と眩しすぎる太陽光を右手で隠しながらアキラは考えた。

どこか浮き足立ったような空気と、その中に混じるお互いの寮への嫌悪感を露わにする生徒たち。

きっちり半分に分かれた境界線をアキラは呆れたように見ていた。その隣に佇む幼なじみは、そんな心を知ってか知らずか、クィディッチ好きが作用してるのか始終ニコニコしている。

取り敢えず不躾にハルキに熱視線を送る男共を牽制するのだけは忘れないように気をつけた。


「何をボヤッとしているのです」


白髪に鷹のような金の目を持った女性──マダム・フーチが、その威厳ある見た目通りの素早さで校庭にやってきた。生徒達はフーチに急かされ、慌てたようにそれぞれの箒の横に立った。その時マルフォイが地味にビビっていたのをアキラはきっちり見て心の中で嘲笑った。


「右手を箒の上に突き出して」


全員がほぼ同じタイミングで手を突き出す。ハルキの顔が緊張で強張った。


「そして『上がれ!』と言う」


上がれ!子供特有の高い声が合唱する。一発で箒が掴めたのは僅かで、マルフォイは自慢の通りだったが、以外にもハリーの方が箒を握るのが早かった。

そんな光景をぼんやり見つめながら、アキラは他の生徒も見る。ロンは後少しだ。ハーマイオニーは地面を転がるだけだったが、段々と跳ねるようになっている。ネビルは箒が全く反応しないと泣きそうだが、あの箒は別名『暴れ馬』。そう簡単には手に収まらないだろう。

そして何より酷いのは、隣にいるハルキである。


「………」

「………」

「………上がれ?」

──ビュンッ


逃げる。
それはもう盛大に逃げる。

さっきからそのせいでアキラは覚え立ての呼び寄せ呪文を先生の目を盗んで何回も繰り返している。おかげでハルキはもう涙目だ。


「ミス・アカバ、どうしても上がらないのなら持って構いません。それとミスター・ミナノ、先ほどから箒に命令していないのは貴方だけですよ」


見かねたマダム・フーチがそう声を掛けてきた。ハルキは恥ずかしそうに頬を赤らめて消え入りそうな声で「すみません先生……」と謝った。そのままたたたー、と箒の方へ駆けて行ったハルキの死角で、アキラが恐ろしいほどの黒い笑顔で生徒たちを怯えさせる。片やハルキを嘲笑うスリザリンへの制裁、片や真っ赤になったハルキに見惚れる男共への牽制。


「上がれ」


静かに言ったのにも関わらず、箒は素晴らしいほどのスピードでアキラの手に収まった。


「すみません先生、少し幼なじみが心配で気が気じゃなくて…。次からは気をつけます。」


ニッコリ。

心配なのは箒に乗れないことではなく、先程の笑みの先にある対象共が手を出さないかであろう。

そんなことは全く気付かないのか、フーチは「よろしい」と言うと元の位置に戻っていった。



あとから戻ってきたハルキが見るのは、何故か出来上がった弱肉強食のピラミッドと、その頂点に君臨する幼なじみの姿である。





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