氷帝short

□君と奏でるは恋の音
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「まさか君に聴かせる時がくるなんてなぁ…」

「私も思ってもみなかったよ…。」


と奏でるは恋の音


「音楽室から優しい音がしたから来たの。」

「優しい?」

「そう。優しい音。
まるで誰かの為に弾いてるような…。」

「そっか…。」

「心辺りでもあるの?」

「うーん、それはどうかな?」

はは、っと情けない笑顔で笑う。
優しい鳳くんとピアノはよく似合った。

「陽さんもピアノ、弾けたよね?」

「あれ、なんで知ってるの?」

「ぇ、ぁ、あぁ、陽さんも此処でよく弾いてるから。」

聞いて、くれてたんだ。

「…じゃぁ、知ってる?」

陽の問いに鳳は首を傾げる。

「この曲、連弾曲なんだよ?」

「ぇ、そうだったんだ…知らなかったよ…。」

「ちなみに鳳くんが弾いてたのは上の方ね、」

そういって陽は座ってる鳳の隣に
椅子を一つだして腰を掛ける。

「私ね、下しか弾けないの」

本当はどっちも弾ける。
ただ、優しい音色をもっと近くで聞きたくて。

「じゃあ丁度いいね、」

という鳳の言葉を合図に
2人が鍵盤に手を置いた。

掛け声もなく弾き始めたのに
当たり前のように1曲が作られて行く。

当然今まで一緒に弾いた事なんてない。
ただ、お互いがお互いの音を聞いてただけ。

「「あっ」」

綺麗な曲が途切れる。

「ごごご、ごめんっ」

「ぇ、ぁ、だ大丈夫、うんっ」

ただ、ピアノを弾いている2人の手が
偶然ぶつかっただけなのに。

しばらくの沈黙が流れる。

「ぁ、あのさぁ…」

沈黙を破ったのは鳳だった。

「ぅ、うん…?」

「お、俺…陽さんの事を考えてたんだ。」

「ぇ…?」

「さっき弾いてた時…だよ、優しいって言ってくれただろう?」

「うん…。」

「優しかったのは、きっと」

陽の方に向き直る。

「君の事を考えてたから…じゃないかな…。」

時間が止まったような気がした。
胸の音もやけに大きく感じる。

「私…っ」

「ぁ、き、急に何言ってるんだろ、迷惑だよね、ごめん…」

「謝らないで…」

「ぇ…?」

「その…嬉しかった…から…。」

「そ、そっかぁ…!」

「ぁ、あの、もう少し弾かない?」

「うん、そうだね…」

また2人の手から1曲が作られて行く。
少し新しい気持ちで奏でられたその曲は…。






「鳳くん?」

「どうしたの?」

「鳳くんのこと考えてたら
自分でもわかるくらいピアノの弾き方が優しくなったの。」





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