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聞きなれたタイマーの音に、読んでいた料理本を机のうえに投げ捨てた。鳴り続けるタイマーを止めて冷蔵庫を開ける。


「完成、ですかね」


色とりどりのゼリーに、無意識に笑みが零れた。どうやら私は自分が思った以上に料理が好きらしい。出来立てのソレをラッピングしながら思った。





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ぐぅ、なんて可愛らしい腹の虫が鳴った。部活前に腹が減るのはいつものことだけど、今日はちょっとワケが違う。


「はぁ…」


ーー今日は朝からツいてない。

久々に寝坊して朝ご飯食いっぱぐれるし、お陰で遅刻して真田に説教食らったし、財布忘れて昼飯抜きだし、ポケットに常備してた筈のガムは切れてるしで散々だ。オマケにテスト前なのに部活あるし。


「あ、あの!」
「………何」
「ブン太くんお腹空いてるんだよね?良かったら私の作った…」
「いらね」


名前は知らないが顔は知ってる。この女子は要注意だ。確かに俺は自他共に認める甘党だか、こいつは何を思ったか全ての食い物に砂糖をドバドバかけたのを寄越しやがる。あれは最早食い物と言うよりは砂糖の塊だ。舌が痺れるほどの。

つまり何が言いたいか。
俺が安心して食べられるものがないってことだ。


ーーぎゅうぅぅるるる
「腹減ったぁ…」


口に出したって仕方ないけど、口に出さないとやってらんない。嗚呼、あの女子が作る菓子がこの匂いくらい美味しそうな感じだったらなぁー。


「(ん?匂い?)…‼」


いい匂いがした。ゼリーみたいな匂いだ。

俺は自分の嗅覚を頼りに廊下を歩く。甘ったるいんじゃないソレは、でも確かに存在する匂いで。取り敢えず今俺が求めてるような菓子の匂い。


「家庭科室…?」


周りの教室が閉まってるせいで目立っている一室。ドアの上のプレートには家庭科室の文字。そして極め付けのこの匂い。俺はドアを開けるかどうか迷った。相手が女だと困るからだ。だが学校で菓子作りなんて絶対女子だろうし、自惚れではないが俺は女子に人気がある。騒がれたら嫌だ。


ーーガラッ
「おわッ⁈」
「………貴方さっきから扉の前でウロウロと何してるんですか」
「あ、えーと…」


突然に扉が空いた。俺は開けてないから向こうから開けたんだろうけど。


「その、(やば!女子じゃん‼)」
「……(何この人挙動不審…)」
「そ、そのだな!」

ーーぐぅう

「…」
「………お腹空いてるんですか?」


完全に固まった俺。相手女子だし、腹減ってるのモロバレだし。何か今日マジでツいてねえ。


「……食べます?」
「へ?」


予想外の言葉に思わず変な声が出た。相手の女子は構わず家庭科室に入ると皿とスプーンを取り出して机に置き、冷蔵庫から何か取り出してその皿に盛った。あれは、ゼリー?


「何してるんですか。いつまで扉の前にいるつもりです」
「え?どういう…」
「見てわからないんですか。食べ物が欲しかったんでしょう?」
「もしかして、それ食わせてくれるのか…?」
「じゃなきゃ用意しませんよ。私が流しを片付ける間に食べ終えてくださいね」


それっきり何も言わないそいつ。俺は恐る恐る椅子に座るとゼリーを睨むように見た。するとそいつは「毒なんて入ってませんよ。失礼ですね」なんて返しやがるから、俺は覚悟を決めて一口食べた。


「…美味い」
「ありがとうございます。」
「いや!まじ美味い!!すげえなお前!!」
「はあ、どうも」


お腹が空いてたせいか、目の前のゼリーが美味しいせいかものすごいスピードで食い終わった。そしたら目の前にさっきと違う色のゼリーが出された。


「自分用に取っておいたものですが、よろしければどうぞ」
「いいのか?!」
「はい。自分で食べるより他の人に食べてもらう方が良いと思いますし、」
「ありがとな!!」


さっきのとはまた違う味だけどやっぱり美味しくて、俺の頬は自然に緩む。さっきと同じように一瞬で無くなったゼリー。何も乗ってない皿に手を合わせた。


「ごちそうさま!!」
「…」


満足気にしていると目の前の女子がメモ帳を片手に真剣に俺を見ていた。


「な、何」
「…感想を教えて頂けないかと思いまして」
「え、ああ!!ほどよく硬くて食べ応えがあった!!」
「改善点とか、ありますか…?」
「うーん…。果肉が入ってる?だけど少し気になるな。もう少し柔らかいといいかも」
「硬さはそのままで、果肉は柔らかく…。ご意見感謝します」
「おう!!」
「あの…。もう一ついいですか…?」
「ん?いいぜ」
「美味しかったですか?」
「おう!すっげえ美味かった!!!」


本心だ。満面の笑みで答えれば、目の前の女子は目を見開いて驚いていた。


「喜んでいただけて、何よりです」
「!!!!」


ふわり、ってそんな効果音がつきそうなくらい綺麗に笑ったソイツ。


「///(す、すっげえかわ、かわいッ!!)」
「?大丈夫ですか?」
「お、おまえ!!名前は?!」
「私ですか?…柊冬葉ですけど、」
「お、俺!丸井ブン太だ!!ま、また来ていいか?!」


ソイツ、柊はキョトンとしたあと控えめに笑った。その顔がまた可愛いと思うのは惚れた弱みか。


「よろしければ、また感想を聞かせてください。丸井先輩」
「///お、おう…。シクヨロ!柊!」





美味しいの作り方






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