頂きもの
□大切だから
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「ピ!?」
眠りから飛び起きたピカチュウは辺りを見回して、隣に眠るサトシを見つけて安堵の息を吐く。ここはニュートークシティのポケモンセンター。ゼノセクトとミュウツーを中心とした戦いが終結し、徹夜したサトシ達は昼寝中だったのだ。そのことを思い出したピカチュウは、涙に塗れた目をそっと拭った。
「ピカピ……」
悪夢だったそれは、嘗て封じられた記憶。ミュウツーという種に再び出逢い、争いが起き、サトシが攻撃の中へと割って入る。あのときと良く似た状況は封じられた記憶を呼び覚ますには十分だった。
「ん……ピカチュウ………?」
そんなピカチュウの不安定な心を感じたのだろうか、サトシは薄っすらと目を覚まして寝惚け眼で相棒の名を呼んだ。そんな気の抜けた声音に、サトシは思い出していないのだと安堵する。こんな悲しい記憶を抱えるのは自分だけでいい。自分の死の経験など最愛の親友は知らなくていいのだと思い、ピカチュウは優しく笑う。
「俺……なにか……忘れてる気がする………」
「ピカピ……?」
けれどそんなピカチュウの覚悟も、サトシの類稀なる野生の勘の前では無意味だった。覚束ない意識の中にあるからこそ、何時もよりもずっと遠慮なく思考のままに声を紡いでいく。
「前会ったミュウツーが言ってた……このことは忘れた方がいいって……」
そのミュウツーとはクリア湖で出逢った彼のことを指しているのだと、気付くのは容易だった。
「カスミが言ってた……いつか、何を忘れたのか気になるときが来るかもって……」
そう、サトシは気になっているのだ。何を忘れたのか、そのときの自分は何を感じていたのか。思い出したいと願っているのだ。
「ピィカ……?」
けれどピカチュウは首を縦にも横にも振らずに、ただ斜めに傾ける。あくまで自分は何も覚えていない、何も気付いていない風を装って。ポケモンから人間に言葉は伝わらないのが普通だけど、彼は何故かピカチュウの言葉だけはいとも容易く翻訳してしまうから。だから問いただすことも彼にはできてしまう。
「…………」
サトシはじぃっとピカチュウを見詰める。サトシのポケモン達は、決して彼に従順ではない。サトシを護るためならば、彼の意に反することも躊躇なく行うのだ。それを分かっている上で拒めはしないサトシだからこそ、ピカチュウが惚けている可能性も朧な意識の中でも感じ取っていた。
「…………眠い、お休み」
けれどまどろむ意識は布団の誘惑に負けてしまったのか、ピカチュウを抱き込んで再び眠りに落ちてしまった。そしてピカチュウも追及を逃れられた安堵から、再び眠気が襲ってきて。瞼を閉じる瞬間ヨーギラスとビクティニの顔が脳裏を過ぎり、サトシの思惑に気付いたピカチュウはヤバイと思いながらも三大欲求には逆らえずに眠りに落ちた。
君に隠し事をしてでも護りたい
お前の考えなんてお見通しだぜ
だって、互いに互いを大切に想う相棒同士だから―――