黒子のバスケ
□希望を失い、そして
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キセキの世代の才能の開花。
それがどんな意味を持つのかはきっとキセキの世代と共に試合をした人間でしか分からないだろう。
どんなに努力しても届かない、明らかな“才能”の違い。
強くなれば強くなるほど、勝てば勝つほど、楽しくなくなる。
いつか見ていた、色の無い世界に俺は戻った。
バスケって、どんな風に楽しむスポーツだったけ……。
そんな理由さえ分からないまま、結局バスケは嫌いになれず、バスケのやる気が起きないまま俺は、海常高校に進学した。
帝光を卒業して海常に入学してからも、俺のバスケに対する感情で変わったことは一つもなかった。
笠松先輩の怒号を聞きつつ、森山先輩の女子の話を受け流しながら、――……
結局俺は、色の無い世界から抜け出せるような力はなかった。
勝ちたいと心から願う相手なんて、もういなかった。
*
海常に入学早々の試合で、黒子っちに負けた。
それは捻じ曲げられない事実で、嘘みたいに負けた。
黒子っち達が帰ると、まわりは慌ただしく練習の準備を始めた。
「黄瀬! お前も準備し(ろ)よ!」
冷たい床に寝転がりながら、快晴の空を見つめる俺に早川先輩の大きな叫び声が聞こえる。
目線を動かしつつ、準備の様子を見る。
指ひとつ動かせる気力がないんスよ。
冷たい床が、今の俺には丁度良かった。
なにも考えられない頭を冷やしてくれるような気がして。
バウンドするボールの音
バッシュのスキール音
ボールがゴールを潜る音
ボールがゴールを潜る度に聞こえる部員の声――……、
全てが懐かしいような気がした。
帝光中バスケ部に、今の海常のようなバスケはなかった。
ボールがゴールを潜っただけで、歓声なんて上がらなかった。
そんなのもう当たり前の世界だった。勝つことが当たり前だった。
だからこそ、俺は――……負けたときの“悔しさ”を知らなかった。
チームのエースである“責任”を知らなかった。
チームでやる“楽しさ”を知らなかった。
「笠松先輩……!」
「あ?」
「次……誠凛と試合するときは絶好負けねぇっスから!」
「次は多分インターハイ、だな」
例え誰だろうと、次は勝ちたいと思う。
それは俺一人じゃなくて、チームで。
「お、黄瀬。練習するか?」
「勿論スよ、森山先輩!」
「んじゃ俺と1on1なー。あ、お前が負けたら女の子の紹介ヨロシク」
「森山は部活中くらい女を忘れろ」
「おいおい笠松、俺ら高校生男子だぜ? 彼女くらい欲しいだろ!?」
「あー小堀ー。森山の代わりに黄瀬と1on1やってくれ」
練習中だとは思えないような賑かな様子に小さく笑った。
戻ってきた、色のある世界。
俺の新しい“希望”、見つけた。