短編集

□七夕
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「もっくん、もっくん、物の怪のもっくん」

「もっくん言うな!」


昌浩が、物の怪のところへ走ってきた。

物の怪は、『もっくん』と呼ばれて怒鳴った。


「何度も言っているだろ!俺は物の怪ではない!物の怪というのは・・・」

「そんなことはいいから今日は七夕だよ!?七夕」

「って無視かい!」


物の怪は、昌浩にスルーされてっ突っ込んだ。


「七夕か・・・これで何回目だろうか・・・」

「もっくん・・・おじさんみたい」


物の怪が昔のように話していたので昌浩は思ったことを言ってしまった。

物の怪は少しむすっとしたがまた空を見上げた。


「昌浩、七夕はどういう話か知っているか?」

「うん。織姫と彦星が出てくるんでしょ?」

「ああ」

「でもさ、今日は雨が降っていて見れないね。天の川」


そう。今日は雨が降っている。

そのため、天の川が見れないのだ。

昌浩ががっかりしていると、隣にいた物の怪は少し考えて考えて昌浩に話しかけた。


「確かにそうだな。だが、天の川が見える確率はそう無いぞ」

「そうなの?」

「ああ。月明かりの影響で見えないときがあるんだ。
それに、七夕に降る雨は『催涙雨(さいるいう)』といい、織姫と彦星が流す涙ともいえるそうだ」

「もっ物知りだね、もっくん」


さすがに長年生きているだけのことはある。

昌浩は、物の怪が結構詳しかったので驚いた。

(もっくんって物知りだったんだ・・・)


「おい昌浩」

「なに?」

「お前さっき思っていたこと全部口に出ているぞ」

「うそ!?」

「本当だ」


うう〜と悩んでいた昌浩は急に何かを思い出したように顔を上げた。


「どうした?」


物の怪は不思議に思って問いかけてみた。


「ねぇ、紅蓮になって」


しばらくの沈黙があった。

それを破ったのは物の怪だ。


「なぜだ?」

「いいから、いいから」

物の怪はしぶしぶ紅蓮になった。

それを見た昌浩は満足したようで紅蓮に体を預けた。

紅蓮は少し驚いたが、体を預けた昌浩がかわいくて仕方が無かった。


「昌浩」


紅蓮に呼ばれた昌浩は顔を紅蓮のほうに向け何?と答えた。

その顔がまたかわいく、紅蓮は昌浩を抱いた。


「そんなことをするのは珍しいな?」


昌浩は紅蓮の言葉に黙っていたが、口を開いた。


「だって、織姫と彦星は一年に一度しか会えないんだろ?
もし、俺と紅蓮がそうだったら耐え切れないと思って・・・」


昌浩の言葉に紅蓮は答えた。


「そうだな。俺も耐え切れないな。そのようなことがあったら俺は、何があってもお前に会いにいく」


昌浩は紅蓮の言葉を聞くと、うん。っとうなずいた。




こんなときがいつまでも続きますように・・・


それが二人の願いだった。

=END=

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