□ヨキ様からの頂き物
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カラスを膝に乗っけて、このところご無沙汰だったメンテナンス。

サソリがウチに来てからはアイツに掛かりっきりだったから随分久しぶりな気がする。

サソリはサソリで仕込みが複雑で弄ってて楽しいんだけど、やっぱり昔から慣れ親しんだカラスは、こうして弄ってるとなんか落ち着く。


「んーカラスぅ♪お前といるとすげー落ち着くじゃん♪やっぱり俺にはお前が…」


ガチャン、と工具箱が落ちる音に振り返ると、そこには瞳孔と口を開いたサソリが立っていた。

あ、工具箱取ってきてくれたんだ、ソレ丁度使いたかったんじゃんよ、と言う間もなく、サソリはツカツカ歩み寄ってきて、俺が腕に抱いていたカラスを思いっきり蹴っ飛ばした。


「ああああカラスぅう!!!オイコラサソリ!!何してくれてんじゃんよ!?」

「…か…カンクロウのバカ…っ!!」

「は!?…ぶふぇっ!!?」


今度は力一杯俺をひっぱたき、サソリは部屋から出て行ってしまった。

何なんだアイツ…
いきなりカラス蹴飛ばすし俺も張り飛ばすし…
訳分かんねぇ…

いや、それよりカラスカラス!!
ぶっ飛ばされて可哀想に!

蹴り飛ばされたカラスを引き寄せて傷んだ箇所がないか入念にチェックしてると、今度はテマリがズカズカやってきた。


「おいカンクロウ!!」

「な、何じゃんよ…?」


なんかムチャクチャ怒ってるじゃん…


「サソリに何したんだお前!?」

「いや、特に何も…」

「泣いてたぞ!?」

「嘘っ!?」


泣いてたってなんでだよ!?

カラス蹴られてひっぱたかれて泣きたいの俺なんだけど。


「嘘じゃない!!私んところにやってきてカンクロウがカンクロウが、とかふにゃふにゃ言いながら泣いてるぞアイツ!」

「えぇー…泣くとかありえねー…だいたい傀儡なんだから涙出る訳ねーじゃん…」

「ニュアンスで察しろ。涙は出なくても泣いてるのはなんとなく分かるだろ。間違いなく泣いてたアイツは。」

「えぇー…」

「兎に角、だ、何をしたかは知らんが、早く行って謝ってこい!!あのサソリがあんなになるなんて、よっぽどだぞ!?」

「俺別に何も…」

「嘘を吐くな!!いや、嘘でも何でもいいから謝って許してもらえ!」


あの野郎、テマリんトコに駆け込むコトねーじゃん、俺めっちゃ怒られてるし。


「テマリには関係ねーじゃん、ほっとけよ。」

「ほっとけるか!!私の部屋にいつまでもいられちゃ困るんだよ!」


それは確かに、ごもっとも。


「早く仲直りしないとお前の夕飯抜きだからな!!ほら、早く私の部屋にサソリを迎えに行ってきな!」


テマリにせっつかれて、取り敢えずサソリを迎えに行く事になった。

テマリの部屋のドアを開けると、いたいた、サソリはクッションを胸に抱いて部屋の隅にちょこんと座っている。

可愛いんだけど、さっきひっぱたかれた分ちょっとムカつく。


俺の姿を見たサソリは、ぷくっと膨れたイジけ面をクッションに埋め、知らんぷりを決め込んだ。

可愛いんだけど、中身はオッサンだからやっぱりちょっとムカつく。


「サソリ、どうしたんじゃんよ?」

「……」


うわ、無視だ。

顔を上げようともしない。


近寄って顔を上げさせようとしたら、スパンと手を払われた。

んで、クッションをぎゅっと抱き締めて小さく丸まって不動のポーズ。

可愛いんだけど、コイツの機嫌が戻らないと夕飯抜きになるからやっぱりちょっとムカつく。


これじゃ取りつく島もない。


「サソリー?何か俺気に障るコトした?ゴメン、許してほしいじゃん。」

必死に猫なで声でご機嫌を窺うと、ちょっぴり、態度が軟化した。


「……まず…遅ェ。」

「な、何が?」

「…追いかけてくるのが。」


んなコト言われても。

突然の事だったから、俺もどうしたらいいか分かんなかったし、別に俺悪くないと思うから、追いかけるとかしなくても良かったと思ったし。

スネてんの可愛いけど、せっかく追いかけて来たのにそんな事言うとか、やっぱりちょっとムカつく。

でもやっと機嫌が少しよくなったみたいだから、現状維持の為に取り敢えず謝っとく。


「ご、ごめん…」


普段よりしおらしい俺の態度に拍子抜けしたのか、サソリがチラッとこっちを見て、


「あ、いや、それはもういい…」


と、僅かながら許しの姿勢を見せてきた。

自分から言っておいて勝手な、とは思ったが、口には出さないでおく。

だがやはりそれはサソリも感じたらしく、気まずい暫しの無言の後、本題、理不尽な怒りについて、抑揚のない声で切り出してきた。


「そんな事より…お前、オレとカラスのどっちが大切なんだよ?」

「え?」


どっちが、って、何でサソリとカラス比べんの?


「アンタと…カラス…どっちが大事って…」

「さっき言ってただろ。カラスに向かって、『俺にはお前が』って。何なんだよ。一番大事?一番可愛い?お前にとってカラスって何なんだよ。それと、お、お前にとってオレは、何なんだよ。オレは…っ!」


そこまで言って、突然サソリが立ち上がって俺に抱き付いてきた。


「さ…サソリ…?」

「オレにはお前が一番なのに…お前しかいねぇのに…なんで、お前は…!」

「え、ちょ、サソリ?」

「カラスはお前の何なんだよ、オレはお前の何なんだよ?」

「え…もしか…しなくても、カラスに嫉妬してんの?」


そう聞くと、サソリがこくっと頷いた。


嫉妬深くて独占欲の強いヤツだとは思ってたけど、まさか傀儡相手に妬くか普通。
あ、一応サソリも傀儡か。


「えと…ごめん、サソリ…カラスに言ってたのはアレ、なんつーか昔からのクセみてーなもんで…」

「そんな事はどうでもいい。ただ、どちらが大事か、オレが聞きたいのはそれだけだ。」


じぃっと、真っ直ぐに、だけど不安を宿して揺らぐ瞳を上げてくる。

我が儘で自分勝手に暴走して面倒臭くてムカつくけど、やっぱりすっごく可愛い。

たまらずぎゅうっと抱き締めた。


「どっちが大事かなんて、そんなの、分かりきった事じゃん。」

「それじゃあ答えになってねぇ…っ!」

「俺が大事なのは、アンタだから。」

「…オレ…だけ?我愛羅よりテマリより、一番大事?」

「まぁ…うーん…」


ソコは勘弁してくれよ。

家族と恋人はまた別なんだから。


「…歯切れ悪ィ。でも、まぁ…こういうコトするのは、オレだけ、だよな?」


サソリがちゅっと軽くキスしてきた。


「当然じゃん?」


応えるように、今度は俺から、深くて長いキスをしてやった。

口を離した後、満足そうな顔をしたサソリが念を押すように囁く。


「これからは、カラス…とかクロアリとかサンショウウオとか…オレ以外の傀儡はあんまり大事にしちゃダメだからな。」


そりゃちょっと、了承しかねる。


だってカラスもクロアリもサンショウウオも、アンタの作品は全て、魂を分けたアンタの一部。

アンタの一部だからこそ大事にしてやりたいし、大切に思う。

なんて言っても嫉妬するんだろうから、黙って笑って頷いておいた。


あー、やっぱムカつくけど、可愛い。


終劇

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