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□043 逃避
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荒い息使いだけが響く。

俺達はミッションをしくじってしまった。

「はぁはぁ..で、どぅする、だ。ヒィ」
こんな状態でも何か喋り続けようとする根性は、ある意味賞賛に値するとヒイロは思う。
あまりにも無意味ではあるが。

何故なら追い詰められた崖っぷちから真下に広がっていたのは、深く荒ぶれた海があるのみだったからだ。

「さぁ、て...」
眼下へ目を落すデュオを、ヒイロは傷口を気遣いもせずその人並み外れた腕力で引き寄せた。
「痛っ、痛...んけど、イさ...」
「足手纏いだが、やたら排除するべきではない」
「おい...い、足手纏、とか、豪快に言ってく、るじゃ...か(でもバレてるとは、な。しかも止められるとは、思わなかったぜ)」
デュオは自虐的に目を伏せた。流れ出る血は体温と共に、体力も気力も恐ろしいスピードで奪っていく。

「いいさ」
ヒイロ一人なら、あいつの事だ、なんとかするだろう。
「共倒れよりはマシだろ?」

「共倒れなど、させない」
「痛いっ、て。それ、にお...もう走、ねえ。俺、ここで囮になる...から、さ。その隙に、逃げてくれよ」

ヒイロは返事の代わりに、改めてデュオを胸元に引き寄せる。
眼下に広がる海に飛び込めば、出口は地獄の一丁目へ直行だろう。

「一緒だ」
ヒイロはようやくそれだけ告げる。背後には追っ手の気配。

デュオは返事の代わりに、今度は自らヒイロの首元に縋る。


以後、二人の姿を見た者はいない。

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