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□雨上がりの
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「このまま、洗っちまぇ!」
デュオはバッシュを履いたまま、ホースから勢いよく流れてくる水で洗い始めた。
「濡れてるぞ」
確かにヒイロの御指摘通り、デュオのジーパンの裾はビショビショである。
「ついでだな」
そう言うと、TシャツとGパンも、これまた着たまま 景気良く洗い始めてしまった。
さすがに今度は声を掛ける事も無く、呆れ顔を浮かべるだけのヒイロである。
「あっ、その顔、今度は髪も濡れてるとか言いたげだな?」
いや、ヒイロは呆れているだけで 何も考えてはいなかったのだが..。
「まっ、いっかぁ」
とうとう頭からバシャバシャ水を被り始め、ついでに三つ編みもほどいてしまった為に、Tシャツも栗毛色の髪も、ベッタリ張り付いてしまう。
「ひゃあっ、冷てぇ〜!。でも結構気持ちいいぜっ」
「ネコ...」
「なぁに?」
ふいに届いたヒイロの声に、惚けた声で返事しながら 慌てて目を開けてみたが、すでにヒイロの小さく消えていく後ろ姿しか見えなかった。


               ●


雨上がりの住宅街、デュオは一人で歩いていた。
なにもかもが しっとりしていて、ホコリっぽくないのが、彼のお気に入りらしい...。
その時、視界の隅で何かがモソモソと動いた。
「おやっ?」
フワァ〜と伸びをしている 一匹のネコ。
「お前かぁ」
デュオとはすっかり顔見知りのそのネコは、彼が近づいて来ても あくまでノンキに無関心を装っている。
「一瞬、何処のネコかと思ったぜ。まぁったく ニャンコの割にドンクサイな、お前は」
お前呼ばわりされた その白ネコは少々寒そうに ニャアンと鳴いて、ようやく2、3歩寄って来る。
「いつもはフカフカしてんのにさ。雨上がりのネコってば、痩せ細っちゃって ちょっとばかり情けな...」


ネコ


そうだ、ネコ...
「あんニャロ〜」
イキナリそう叫んで走り去ってしまったデュオを、白いネコは一応 義理を果たす程度に見送ってから、もうそんな事忘れてしまったかの様に、毛繕いを始めた。


               ●


「ひぃ〜いぃ〜ろぉ〜」
とりあえず、ありったけの険しい顔を作って、ゼーゼーと息が上がりつつも、それだけは告げたのだが、こと相手がヒイロでは余りというよりも 全くという位効果的では無い。
「なんだ」
「テメエ、俺の事、ネコだなんてヌカシやがったよなっ!」
「記憶に無い」
「この前 オ・レ・が・水浴びしてた時だ」
「猫に問題でもあるのか?」
「それは、そのぅ...」
(なんでオレの方が尋問されにゃあ ならんのだ?)
すっかりヒイロペースである。
「じゃヒイロ、何考えてたんだ?」




           (間)




「...スイカ」




           (間)




「はい?」
「夏の果物だ」
「あっ、オレ食った事無い。うまいんだろうな?」
「冷やすと美味い。水に浸して、上から湿した薄い布を掛けておくと よく冷える」
「おっ、そんじゃさっそく明日...って、そんなウンチクが聞きたい訳じゃなくてなぁ」
「いらないのか?」


「...いります...」


翌日、デュオ宅の風呂にはヒイロに買ってもらったスイカが冷やされていた。

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